予測範疇外の登場
「兄貴?!え、な、なんで……っ」

「ほら、可愛い弟がこの間お世話になったからね。あの時お礼はしたつもりだけど……足りない気がして」

「悪魔ですか、君は!」

寮の玄関先から裕太君と聞き覚えのある声がして聞き耳を立てていた僕は、急いでその場に出て行く。
大体関東大会に勝ち進んだくせに、負けて都大会止まりになった僕たちの寮にまで押し掛けてくるなんて、性格が悪いとしか言えないでしょう。

「……っと、君は」

「…………あ、あれ?!」

そこには裕太君のお兄さんである不二君がいましたが、その不二君と仲良く手を繋いでオロオロしている女子がいたので目を見開く。
しかも彼女には見覚えがあったのだ。

「……夢野詩織さん?」

「……た、確かカーネーションのんふって笑う人だ……あれ?私、名前あの時名乗ったっけ?」

「……なんですか、その覚え方。失礼ですね。僕は観月はじめと申します。……ちなみに、君のことはテレビで拝見したことがありましたので」

新しく出来た花屋で見かけた彼女は、確か氷帝の榊監督と一緒だった。
その後の調べにより、事故をきっかけに立海から氷帝に転校していることがわかっている。
榊監督が現在の保護者であることも。

だが解らないのは、今この場に彼女がいることである。
しかもよりにもよって青学の不二周助と。

「……へぇ。面白いな。夢野さんと観月が知り合いだったなんてね」

「いや、っていうか……テレビってなんすか……?あの、観月さん」

「何を言っているんですか、裕太君。奇跡の少女といえばわかるでしょう?あんなに大々的に取り上げられたニュースを知らないなんて……」

はぁっと溜め息をついてから、もう一度彼女を見た。
いまだに彼女の手と不二君の手は繋がったままである。

「……どうでもいいですが、それはいつまでそうしているつもりですか。あと、何しに来たんですか君たちは」

「もちろん裕太に会いに来たんだけど。……悪いけど観月に命令される覚えはないよ。僕の勝手だよね?」

いつも笑みを浮かべている表情が冷たく凍る。
まるであの試合を思い出して背筋に悪寒が走った。

「お、おい。お前は何しに来たんだよっ」

「ふぉ、裕太くんに借りていた服を返しに来たのだよっありがとうございました!そしてこのお二方に何があったの、怖いっ」

僕と不二君の雰囲気についていけなくなったのか、裕太君が夢野さんに話しかけていた。
夢野さんが裕太君に差し出した紙袋の中身が少しだけ見える。衣服のようだ。

「そ、その、不二さん、もう無理です!汗のかきすぎで脱水症状起こしますので、今までありがとうございましたっ」

「それは大変だね。フフ、ごめん。からかい過ぎちゃったかな……」

それから夢野さんが涙目で叫べば、クスクスと笑いながら不二君が手を離した。

その会話と離れた手を見ながら、ホッと裕太君が息をついたのを見逃さない。
……もしかしたら、裕太君の反応を見るために不二君はそうしていたのだろうか。
だとすれば……?


「……観月、何やってるだーね」

「お、弟君も一緒じゃん」

「……あそこにいるの、青学の……」

僕が思案したところで、柳沢君と野村君、木更津君が近付いてきたのだった。

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