いざ聖ルドルフ学院中等部寮
──テストがやっと無事に終了した。
入院していた分、我慢できなかったのでテスト期間中もこっそり屋上でヴァイオリンを弾いてしまったが後悔はしていない。
テスト二日目と三日目に屋上に来たジロー先輩と滝先輩が「テスト赤点とらないでね〜」とか「余裕だね〜」とか言っていたが、正直赤点ギリギリの教科もあると思うし、余裕はないに等しい。
でもしょうがないじゃないか。足掻いても今更だもの。




「……やぁ」

そして私は今、氷帝学園の正門前でキラキラした笑顔を携え、片手を上げた不二さんに魂が半分以上口から飛び出た状態になっている。
テスト最終日だった本日も屋上でヴァイオリンを弾こうとしていた私だが、昨夜不二さんから《裕太の服、返すなら直接寮にいった方がいいかもしれないから。行こうか》という半ば強制的なメールが届いたわけだ。
いやしかし、ずっといつ返すべきかと悶々としていたので、タイミング的には良かったと思う。まさか、このようなお出迎えイベントが発生するとは想像していなかったわけだが。

「フフ、相変わらずブツブツ何言ってるの?ほら夢野さん、行くよ」

「は、はいっ」

正門から出て行く時に後ろを一度振り返ったら、口をあんぐり開けている鳳くんと目があった。

……あぁ、そういえばあのメールからずっと宍戸先輩に会ってないなぁと思っていたら、不二さんが笑顔で「危ないよ」と私の手を自然に握られたので思考がすべて吹き飛んだ。

手、てて、手?!
同い年に近い男の子に、よもや手を握っていただいて歩く日が私に訪れようとは……!
さらに不二さんはかなりの美少年さんである。

「わ、私なんかに美少年の手繋ぎの安売りして大丈夫ですか、いや私の心臓が大丈夫じゃないです、どうしましょう?!」

「……前から思っていたんだけど、夢野さん、少女漫画とか好きなんじゃない?」

「え?な、なぜ……?」

「うーん、なんだろう。ほら、夢野さん、男子と二人っきりとかになったら極度に緊張してるし……それって意識してるのかなって。興味ない人は気にしないから」

「…………っ?!」

驚愕だった。
タマちゃんやyukiちゃんのことを恋する乙女は可愛いのうと縁側に座る祖母的な立場で眺めていたつもりだったが、もしかしたら不二さんの言うとおり私は恋愛に興味があるのかもしれない。

る、流夏ちゃんに相談しなきゃ……!頭が軽いパニックだ。

不二さんに握っていただいている手は既に汗だくである。
どうしよう。不二さん、気持ち悪くないだろうか。
優しい不二さんのことだ。握った手前、自分からは外しにくいはず。ここは私から離れるべきだろう。

いつの間にか、聖ルドルフ学院中等部寮とかかれた看板も目に入ったし(一体どういう道のりでここまできたのかパニックで覚えていないが)タイミング的にも悪くないはず。

「あ、ありが──」
「フフ、ダメだよ。裕太に見せつけるんだから」
「──それは人選ミスであります不二隊長っ」

綺麗に微笑んだ不二さんは本当になにを考えているのかまったくわからない。

とりあえず、外そうとした手をより一層ぎゅっとされて、自分の掌がねちゃねちゃしていて泣きそうになったのだった。



(…………どうしよう。これは本当に異性慣れしてないだけだね。混乱させたこと、後で謝らないとな)

72/79
/bkm/back/top/
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -