まるで枝が折れるように学食の床に膝をついて、直後大きな音を立て額から前のめりに倒れた夢野に瞠目する。
「おいっ、夢野!」
ざわつき始めた人垣を押しのけ、頭を強打した夢野を抱きかかえた。
「ああ跡部さ、まっ」
近くにいた泣きそうな顔の女は、確か夢野の友人だった気がする。
駆け寄ってきたもう一人の夢野の友人らしき女と、日吉たちを一瞥してから「保健室に連れて行く」短く伝えた。
保険医は俺が運んできたことに大層驚いていた様子だったが、すぐに仕事に移った。
「……頭を打ったみたいだけど、意識は大丈夫そうね。ただ高熱が出ているわ。ウィルス性のものだとは思うけど……彼女、夢野さん、よね?」
「はい。……体力や免疫力など低下していたはずです。症状が重いのはそのせいでしょう」
「そうねぇ。……あぁ、榊先生に連絡しといてもらえるかしら」
「えぇ」
小さく頷いてから保健室を後にする。
退室する前に一度だけ夢野を見たが、ブツブツと聞き取れない譫言を口にしているようだった。
賑やかな廊下を進み、職員室にいた榊監督に声をかける。
手短に説明すれば、珍しく動揺したような青い顔をしてから、足早に保健室へと向かわれた。
……さすがに何かあっては天国にいる夢野の両親に顔向けできない、か。
いや、まぁアレは姪馬鹿傾向に当たるかもしれない。
「跡部さんっ!」
「……鳳と樺地か」
「……ウス」
肩をすくめたあたりで、廊下の向こうから鳳が小走りに近い歩き方でやってきていた。
後ろには同じように心配そうな顔をしている樺地もいる。
「あの、夢野さんは大丈夫でしたか?」
「今のところ高熱は出ているが……恐らく大丈夫だろう。ただ、大事をとって入院ぐらいはするかもな」
「え?!入院?!」
「騒ぐな。……ヤツは一人暮らしだろう。榊監督としても、そうさせるのが無難だろう」
目を見開いた鳳にため息混じりに続ければ、ヤツは安心したように胸をなで下ろす。
「あ、俺、宍戸さんや日吉たちにも知らせてきます!失礼しました!」
慌ただしく早歩きで廊下の角に消えた背中を見ながら、俺はもう一度ため息を吐いた。
隣で樺地が穏やかな表情で俺を見つめている。
「……アーン?何か言いたいことがあるのか、樺地」
「…………」
ぶんぶんと首を横に振る樺地だが、その瞳はいまだ意味深に俺様をとらえていた。
「……っち、俺様が焦ってるように見えたのは、間違いだからな」
「……ウス」
「…………腹が減った。何か軽く食べれるものを持って来い」
「ウス」
……そういえば、あの馬鹿はアホみたいに軽かった。
夢野を抱き上げた時のことを思い出してから、そっと息を吐き出したのだった。
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