元々運動神経が少し鈍い上に、半年間の寝たきり状態から筋力の衰えも感じている私にとって、些か苦手分野になってきている体育の授業は終わった。
何やらみんなにからかわれ過ぎて上昇した顔面の熱が引く気配がないが、楽しい昼食である。
「……相変わらずものすごい独り言をありがとう。さ、席はその窓側でいいかしら?」
「詩織ちゃんは見てて飽きないよねぇ〜」
冷静な眼で私に微笑むちーちゃんとニコニコと楽しげに笑うタマちゃんは雰囲気が対称的だったが、いつものことなので何も言うまい。
「席は私が確保しておくから、二人とも早く買ってきなさいね」
「「はーい」」
ちーちゃんが、シンプルな作りのお弁当箱を広げている間に、私とタマちゃんは食券を握り締めながら列に並ぶ。
学食はほぼ満席状態である。
大体いつも空席が少ない方だが、今日は金曜日なので特に混雑していた。
もちろん、例のアレである。
金曜日名物、跡部様のフルコースだ。
「キャー!跡部さまぁあっ!!」
黄色い声が一斉に解き放たれ、渦中の人物がゆっくりと優雅な立ち振る舞いで席に腰をかける。
「……〜っ」
いかん。
笑いがこみ上げてくるのは、跡部様たちと多少なり親交があったからだろうか。いや、始めからかも。
なんというか、跡部様の周りにいる忍足先輩たちの表情から彼らの心境が読み取れている自分が怖い。
今、溜め息ついた宍戸さんは明らかに女子の声にうんざりしているんだろう。
若くんの眉間の皺の刻み具合からも不機嫌レベルがわかるようになっていた。
「……あ、うん。これがわかるようになったのは、ちょっと嬉しいかも……はっ!若くんに物凄い睨まれた!なんで?!怖いっ」
「詩織ちゃん、あの、今日は独り言パワーアップしてるよぉ〜」
苦笑しながら私の口に人差し指を当ててくるタマちゃんが女の子らしくてとても萌えたのだけど、バクバクと心臓は別の意味で大きく脈打ち始めていた。
周囲の人たちから、訝しげに見られている。
独り言がどこまで心の声を口に出していたのかわからないが、これは少しマズいかもしれない。
「……あれ、というか……なんか、頭の中がうまくまとまらない、かも……っ」
「え、詩織ちゃん?!」
そういえば、朝からなんでもかんでも口から出ていた気がする。
昨夜の恋バナで体中から火が出るように熱いのかと思っていたが、今思えば起きた時から様子がおかしかった。
「自分のことなのに、何いってるんだろ……」
「おい、夢野っ」
地球がぐるぐる回っているのは知っているが、なんで今視界が大きく左に揺らめいて回るんだろうとか考えてる内に、私の意識はぷつりと途切れたのだった。
……最後に聞こえた偉そうな声は、一体誰だっただろうか。
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