素直じゃないなぁ
「……わ、若くん、頑張れー……え、ちょ、なんでみんなニヤニヤしてるの、待って……なんか昨日の今日で、うわっ、恥ずかしい……!」

女子と男子で半分に分かれているグラウンドの丁度中間地点で、夢野さんがわたわたしていた。
どうやら及川さんと篠山さんを代表とした同じクラスの女子にからかわれているらしい。

「…………恥ずかしいのは俺の方だ。馬鹿女……っ」

吐き出すようにそう呟いた目の前の日吉を見る。
そしてビックリし過ぎて、日吉からボールを奪うことを忘れ見送ってしまった。
俺の脇をひょいっと抜いて、日吉の手から離れたボールは、斜め後ろの網をくぐる。

……あぁ、スリーポイントシュート。
いやでも、そんなことが些細なことになってしまうぐらい、日吉の顔が真っ赤だった。それになんか穏やかな顔だった。

「若くんカッコイイ!ってそんな睨まないで!……って、タマちゃん、またニヤニヤしてなんなんだー!……うぅ、昨日……恋バナをしたせいだ……変な感じがするぅ……くっ!だが負けぬ!とおう、ぎゃあっ」

夢野さんが日吉に睨まれ、及川さんにニヤニヤされて、それから独り言を口にしながら走り高跳びに挑戦していたが、見事に頭から棒に当たりにいっていた。
思わず吹き出してしまう。だけど、彼女は一生懸命みたいだったようだし、必死に笑いをこらえてみたが肩がプルプルと小刻みに震え、余計に笑いが止まらなかった。

「……鳳、あの馬鹿、泣きそうな顔でお前を見てるぞ」

「っ、ご、ごめ……っ!夢野さん、悪気はな……ぷっ。ダメだ、ごめん!こっちみないでっ」

「お、鳳くんがヒドい!」

日吉の溜め息混じりの声に視線を戻したら、真っ赤な顔した夢野さんが俺を恨めしそうに見ていて、笑っちゃダメだと思ったんだけど、我慢できなかった。


「…………鳳との組み合わせも面白いわね」

不意にぽつりと篠山さんが口角を上げて俺を見ていたが、その言葉の意味がどういうことを指しているのか、よくわからない。



「やっぱり夢野さんって一緒にいると楽しい人だよね」

「……そう思うのは能天気なお前だけだろ」

体育終わりに日吉にそう話し掛けたら、不機嫌そうにそう返ってきて。

その言葉の裏に隠れている感情につい笑ってしまう。

「……夢野さん、日吉にすごく懐いてるよね。見てたらわかるよ」

「…………」

「きっと日吉のこと、好きなんだよね」
「なっ」
「──友達として」

目を細めて、目を見開いて俺に顔を向けた日吉を見つめた。
一拍置いたわざとらしい台詞を聞いて、また日吉は眉間に皺を寄せる。

「夢野の友人になった覚えはない」

ただのクラスメートだ、と続けながら体操服を脱いだ日吉は、いつもと変わらない様子だったけれど。
ほんのりと色づいた耳に苦笑いした。


……例えば、俺が同じクラスで彼女の隣の席だったら。
このもやもやしたものは少しぐらい晴れるんだろうか、なんて。

意味のないことを考えてしまっていた。

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