駆け巡る噂
──何やら今日は若くんの機嫌がとても悪かった。
前にも一度似たようなことがあった気がするが、たぶんその時よりも冷たかったと思う。否、必要最低限の会話はしてくれるのだが、すぐに私から意識を離されるのだ。

……なんだろう。
もしかして、私はまた何か彼が怒るようなことでもしたのだろうか。

「……お前、少しは自分の性別を考えろ。馬鹿だとしてもそれぐらいは覚えていられるだろ」

帰り際に言われたお叱りの言葉の謎が解けることになるのは、その日の夜である。



《善哉:なぁパンダ、家に男連れ込んだって本当なん?》

《パンダ:は?》

パソコンの画面を凝視しながら硬直した。

……光くんは一体何を言っているのだろうか。まったくもって意味が分からない。

《Eve:何それ?》

《善哉:今ヘタレの先輩から電話かかってきたんっすわ。パンダが男連れ込んで、その男は一泊したらしいって……不純異性交遊っすわ》

《eleven:……実は俺もとある先輩から、その泊まった男から朝にメールあったって聞いた。何かの冗談じゃなかったのか》

あ、あの野郎……っ

思わず毒が口から漏れる。可愛い顔をして、何てことを人に話してくれているのだ。
……と嘆いてみても、ジロー先輩の笑顔を思い出したら脱力した。
たぶん、彼は特に深いことを考えずに発言したりメールしたりしているんだろう。
否、私の部屋がパンダだらけなことに大層興奮していたので、そのことを色んな人に話したかっただけだと思われる。
悪気のない人過ぎて、はぁっと溜め息をついた。


《善哉:……パンダの尻軽》

《パンダ:え?!善哉さん、彼が泊まることになった経緯を説明したのに?!》

ケーキバイキングの話から説明したというのに、光くんから放たれた冷たい台詞に瞠目する。

《Eve:まぁ、男とケーキバイキングにいく選択肢自体が間違いだよね……っていうか、なんで俺を誘わないんだよ……あぁ、メールアドレス知らないからだよな。知ってて誘われないのは嫌だよなぁ……》

《eleven:え、俺……誘われてないけど》

《善哉:パンダ酷いな。きっとeleven死ぬわ》

《eleven:ショックはショックだけど死ぬかよ!》

……これほどまでに退室ボタンを押したくなったことはないだろう。

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