それだけでも稀だというのに、どうやら樺地に連れられて来たわけでもないらしい。
なんと自力で登校してきたというのだ。
「……あー、自力っていうか、詩織ちゃんと一緒だったんだけどねぇ」
「はぁ?なんでそこに詩織が出てくんだよ?」
ロッカー前で上着を脱ぎながら、意味深な発言をしたジローに岳人が眉根を寄せる。
俺も岳人と同じ気持ちやった。
「詩織ちゃんちから一緒に登校したんだC〜。昨日、詩織ちゃんちで寝ちゃったから〜」
問題発言を平然と言ってのけたジローを二度見する。
気づけば、他の面子も驚いた表情でジローに視線を向けていた。
鳳なんか目を見開けた上に口もあけたままで、なんやアホみたいな顔になっとる。必死に隣の宍戸に「ど、どういう意味でしょう?し、宍戸さんっ宍戸さんっ」と肩を揺さぶっているが、宍戸の迷惑そうな表情から察するに「知るかよ」と口にしたいところやろう。ちゅーかそれ以外ないやろ。
「……はぁ。ジロー、お前夢野に迷惑かけてどうするんだ」
「A〜?俺、迷惑かけてないC〜!」
眉間を指で押さえながら、深いため息を吐き出した跡部に、ジローは頬を膨らませていた。
「……まっ。ジローは本当にただ寝ちゃっただけだろうけどねー」
「…………何故俺を見るんですか。馬鹿馬鹿しい」
滝が目を細めて日吉に声をかけたら、日吉は無表情のまま部室から出て行く。
あぁ、そうや。朝練やわ。
はっとして、いまだに石みたいに固まっとる岳人の頭を小突いた。
「……く、クソクソ!侑士は気になんねえのかよ!!」
「アホ。めちゃくちゃ気になるっちゅーねん」
冷静に返してから、ジローに質問しようと喚いている岳人の首根っこを掴み、部室を出る。
……俺かて、ジローには聞きたいことだらけや。
「ちゅーか、色々ズルいわ」
何もなかったとして、もし俺が同じことをしていたら、避難囂々やろうなぁと鼻を鳴らす。
ジロー、ほんま得やわ。色々と。
その日は一日、なんや落ち着かんかった。
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