これはこれで落ち着かない
──私はまず、千石さんと丸井さんとケーキバイキングに行くことを決意した後、すぐさま流夏ちゃんにメールした。
流夏ちゃんから陸上部が忙しいから無理だと返事がきたので、今度はちーちゃんとタマちゃんに声をかけたわけである。
何としても自身の緊張緩和と男二人に女一人という状況を打破しようと足掻いてみたのだが、無駄だった。
二人もそれぞれの部活動が忙しいと断られたのである。

そして私は最終手段だと、テニス部に向かおうとしていた若くんの腕を掴んだのだが「……何故俺が千石さんたちとケーキバイキングに行かなきゃいけないんだ。行くわけないだろ」と冷たい返答を頂いたのだった。
若くんならば、普段からずっとお隣さんなので気兼ねがないというのに……

「……若くんなんかハゲたらいいんだ」

「…………」

「っ、やめ、ごめんなさい!お願いだから無言でこめかみグリグリするのやめて!痛いっ」



……そんなこんなで、その後屋上に転がっていたジロー先輩を見つけて、その可愛らしい寝顔に癒やしを感じた私は、ジロー先輩をダメ元で誘うことにしたのである。

「詩織ちゃんと丸井くんとケーキバイキング?!もちろん、行くC〜っ!!」

そう満面の笑みで喜んでくれたジロー先輩は天使みたいだった。


「…………芥川くん、俺のこと嫌いなの?」

そんなジロー先輩を引きつった笑顔で、ただいま千石さんが見つめている。

「A〜?そんなことないCー」

きょとんとした表情で首を傾げたジロー先輩は、本当に何もわかっていない風だったが、確かに私が今千石さんの立場だったとしたら、ひっそりと心の中で思い、それが思わず口から出てしまうことだろう。

「……六人掛けの席に、何故三対一で座らなきゃいけないのかなーって」

「あー、ごめんねー。俺、丸井くんと詩織ちゃんに挟まれたくてさー。別にEーよねー?」

「あ、あはは……」

思わず千石さんと一緒に笑ってしまった。
さすがジロー先輩。とことんマイペースである。
マイペースなのは千石さんもそうだとは思うが、彼は常識的な部分も持ち合わせてるので、やはりジロー先輩の常識外な言動には負けてしまうらしい。

「……それより、いい加減ケーキ取りに行こうぜぃ」

待ち合わせの時から、少々不機嫌が続いている丸井さんが頭をかきながら面倒そうに言った。
確かに時間制限もあるし、早く取りに行った方がいいかもしれない。
それに、ケーキを食べたら丸井さんの機嫌も良くなるような気がする。

「そ、そうですよ!いきましょう」

なるべく明るい声を出して、席並びに不服そうな千石さんの背中を押した。



「……あ」
「え!」

そして大量のケーキの山に、どれから食べようかなとお皿を持ちながらウキウキしていたら、ケーキの山の向こうに見知った顔があったので硬直してしまった。

「うげ。なんで青学の……」

「オモシロくんに、菊丸くん、それから──」
「越前っス」

「ここの半額割引券が町内会の福引きで当たったんだよん!」

丸井さんが驚き、千石さんが順番に指さしていけば、向こうの三人組も少し驚きつつ「……で、そっちはどういう組み合わせ?」と私たちを眺めてくるのだった。

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