ここ2日間ほどそわそわと落ち着かなかった。
授業中は上の空だと仁王に言われたし、部活中は妙にはりきっているなと真田くんと柳くんに誉められた。帰り道ではジャッカルに心配されたりもした。
何故かと聞かれたら、今日の約束のせいだと答えるしかねぇだろぃ。
《丸井さん、火曜日の部活後にケーキバイキングに行きませんか?もちろん私の奢りではないです》
《奢りじゃねぇのかよぃ》
《本気で奢らせる気だったのかこの野郎。……嫌ならいいんです。それじゃあ》
《ちょっと待てって!誰も行かねぇなんて言ってないだろぃ?!》
そんなやり取りのメールを見返しながら、ニヤニヤと頬の筋肉が緩んでくるのを必死にこらえた。
……あの合宿以来、久しぶりにあの馬鹿に会うのだ。
東京まで出るのに電車代が多少痛かったが、そんなのは気にしていられない。
夢野に会える。
はやる気を抑えようとしても、勝手に早足になってた。
学校を出る時に口の中に放り込んだ風船ガムは、既に味がしない。何味だったかも思い出す余裕がないくらい、待ち合わせ場所に近づく度に鼓動が高まっていった。
「っ、おーい、夢野っ」
「……あー」
氷帝の制服を着た夢野を見つけた。
コイツこんなに可愛かったっけと馬鹿みたいなことを考えてから、隣に誰かいることに気づく。
「……あー、丸井くんだCー!!丸井くんも一緒なんて嬉Cー!」
「え……じ、ジロくん?」
キラキラとした目で俺を見つめるジロくんの顔にやけに頭ん中が冷めていった。
「お、いたいた詩織ちゃん!お待たせーって……え?!」
「……なんで千石までいるんだよぃ」
「えー?みんなでケーキバイキングにいくんだよねー?」
「そうですよー。この四人で行きます。……本当は女の子たちにも声をかけたのに、三人とも用事があるんだもの……」
小さく息を吐いた夢野が異様にムカついたので、取りあえず何も言わずに頭のてっぺんをぐりぐりと親指で押しておいた。
「や、やめて下さい!ハゲる!!」
「便秘になるツボだっつーの、馬鹿夢野」
「Aー?下痢じゃなかったっけー?」
「…………どっちにしても女の子にやめなさい。っていうかまいったなぁホント」
千石がぽつりと「デートに誘ったつもりだったのになぁ」とそのまま呟いたのを聞いて、少しだけ腹が立ったのが治まった。
もし……
もしも、千石と二人っきりが嫌で、俺を呼んだんならそれはそれで、なんかちょっと嬉しかったんだ。……俺自身、意味わかんねーんだけども。
「……ジロー先輩、先輩が私の安息の地です」
「お前嫌いだマジで」
「え!丸井さん、何故まだ怒ってるんですか?!」
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