甘酸っぱい
「……や、やっぱりやめ──」
「しっかり掴まっとけよ!危ないだろっ」

自転車をこいでいる裕太くんに怒られて、私は否応なく彼の背中にぎゅうっとしがみついた。
自転車の二人乗りは犯罪です。というか、どうしてこういうことになっているのか私にはわからない。
それほどあっという間の展開だったのである。



というのも、濡らした服を乾かし着替えてからおいとまさせていただこうとしていたら、裕太くんの服は着て帰って後日返してくれればいいからという話になった。もし気になるなら乾くまでいてもいいよと言われたが、夕食をご馳走していただいてしまいそうな雰囲気だったので、裕太くんの服をお借りすることにしたのだ。
そしたら不二さんにとある報告をしにきただけだからと、裕太くんが寮に戻ると言い、そのついでに送ってくれるという話が出て今に至るわけである。

「……ふぉおぅ」

「……なぁ。背中越しに変な声聞こえて怖いんだけど」

「申し訳ごさらぬ、緊張して腹をかっさばいてしまいそうでござる」

「侍かよ!否、え?お前のキャラがわかんねぇ……すっげー不気味。怖い」

「…………泣きたい」

裕太くんの極普通の反応に心が痛い。
裕太くんはきっと十次くんタイプに近いのだ。私の独り言に素で返してくるタイプである。
若くんや光くん、リョーマくんのような冷たいツッコミが無性に恋しくなった。それか桃ちゃんやジロー先輩みたいに笑ってくれるのも可だ。
……否、私のただのわがままなんだけど。





「……あ、ありがとうっ」

「いや…………その、ふ、風呂場覗いてごめんな!じゃ、じゃあな」

わざわざ私のマンションの前まで送ってくれた裕太くんに深々と頭を下げたら、去り際に彼は小さく謝ってくれた。
その時後ろを向いていたけれど、薄暗い中はっきりと裕太くんの耳が真っ赤に染まっていたのを見た。……少しキュンとしてしまったのは、私が思春期少年の可愛さ萌えだからだと思う。

部屋に帰り着いてから携帯電話を開けたら、十次くん、光くん、滝さんの三人からメールが届いていて、どれも地区予選突破を伝えるものだった。
大阪は次は府大会になるのかぁなんて思いながら、折角なので立海に送ったように山吹、四天宝寺、それからレギュラーは出てないけど氷帝の皆さんにもおめでとうメールを送ることにした。
といっても、アドレスを知っている人だけにだから、山吹は十次くんの他に千石さんだけだし。四天宝寺も光くんと小石川さんにだけである。

暫く私の携帯電話は賑やかだった。
その賑やかさに幸せを感じている自分が、なんだか妙に気恥ずかしい。



《あ、そうそう!合宿の時に約束してたデートね!火曜日の放課後とかどうかな?ケーキバイキングとか行かない?》

「……ケーキバイキング……」

千石さんと出かける約束というか、正確には私の気が向いたらのはずだが、まぁいいかとつい吹き出してしまった。
やはり千石さんは憎めない人だ。

「……そう言えば」

ケーキバイキングといえば、メールをし始めてから彼もずっと連れていけとしつこい。

……千石さんと二人っきりというか、男の子と二人っきりは真田さんの時然り、忍足先輩や不二さん、裕太くんの時同様緊張感が半端ないので避けたい。
だけど約束だし、何より私なんかと出かけたいと言ってくれている人を無碍にはできない。
……ならば二人っきりにならなければいいのである。

そう考えてから、私はぽちぽちとメールを新たに送信することにした。

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