氷帝の生徒で、兄貴とはちょっとした知り合いなんだとか。
「……いや、それよりなんで俺の服……」
「ごめんね、裕太。姉さんや僕の服は彼女には大きくて。ほら、裕太急に身長伸びたよね?だから伸びる前に着ていた裕太の服ならまだマシかなって」
「すみません、不二さんの弟君様。平に申し訳ありません。必ず洗濯してお返し致しますので!」
笑顔の兄貴の横で、夢野は額を床に擦り付けながらそう言ってきた。……コイツ、ちょっと変否めちゃくちゃ変なんだけど。大体コイツが着ている服は兄貴が言ってた通り少し小さい。だから夏の寝間着代わりにしていたものだ。だからそこまでへりくだられても困る。
兄貴とコイツがどうやって知り合いになったんだろうか。
「不二さんの弟君様、私が川に飛び込んだばかりにご迷惑をお掛けして、寧ろ余計なものをさらけ出してごめんなさい」
「…………裕太、だから」
「……へ?」
ずっと謝ってばかりの夢野にため息を吐き出す。……普通、俺が裸を見たんだから怒ってもいいのに。謝るタイミングを完全に見失ったじゃん。
それに、丁寧な口調でも『不二さんの弟君』と言われるのが嫌だった。
……今俺がルドルフで寮生活しているのは、そう言われるのが嫌だからだし。
「話聞く限り、同い年だろ。お前」
「……裕太くん」
「……お、おう」
風呂場の件のせいでまともに彼女の顔が見れなかった。向こうもそうらしく、俺を見ようとはしなかったが、ぽつりと名前を呼びながら夢野は俺を見たのだ。
ぽかんとしたような間抜け面で。
思わず俺も彼女を見た。
初めて視線が絡んで、その瞬間にカァッと顔中が熱くなる。
一気に記憶に蘇った風呂場のシーンが、また鉄の味と匂いを戻してきた。
慌ててティッシュを掴み、手で鼻を押さえる。
「だ、大丈夫ですか!」
「フフ。裕太、今何を思い出したの?」
意地悪そうに目を細めた兄貴を呪いながら、ルドルフも地区予選を突破したことを伝えようと帰ってきただけなのにと嘆くのだった。
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