終始、夢野さんは笑いっぱなしだった。
怪我のせいで遅れてきた越前が加わったところで、盛大に乾杯をした。
手塚が先生に間違われたり、僕のわさび寿司を横取りした英二が悲鳴を上げたり、その度に彼女は涙目になるまでケラケラと声を上げて笑う。
その笑顔が眩しくて、こっそりカメラのシャッター音を何度か鳴らした。
「……じゃあ俺と手塚は先に帰るから、迷惑をかけるんじゃないぞ」
暫くして大石と手塚が先に帰り、ちらし寿司をご馳走になりながら、不意に夢野さんが帰り支度をしているのに気づいた。
越前と桃に挟まれて、またおかしい独り言を口にしていたのに、いつの間にか二人から離れ、タカさんにペコペコと頭を下げている。
越前たちは新しく出された寿司に目を奪われているのか、そんな夢野さんに気づいていない。
「あの、では、私はこれでーお誘いありがとうございましたー」
「送るよ、夢野さん」
大きめの声を発した夢野さんにすぐさま続いた。僕の動きが早かったからか、英二たちは唖然としていたようだ。
「……ふぉぉ、まさか不二さんが……ああ、あの、送っていただけるなんて恐縮ですはい」
「フフ。一人で帰るつもりだったのに、邪魔してごめんね」
前から思っていたんだけど、彼女は二人っきりだと極度に緊張するみたいだ。言動がいつもの五割り増しおかしくなる。
……今頃、越前は悔しがってるかな、なんてことを考えながら、がちがちに固まっている夢野さんにくすりと笑みをこぼした。
「あ」
そんな時だ。
道沿いにある川にフェンスを飛び越えて、公園で遊んでいた子どもたちのボールが落ちたのは。
「……ど、どうしよう。あ、でも浅いし、取れそうかも……」
「夢野さん?!」
僕は思わず目を見開いた。普通、ここは僕を頼ってくれてもいいはずだ。なのに、彼女はいつもの独り言を口に出しながら、フェンスを越え、川に飛び込んだのである。
幸い、夢野さんの膝上くらいまでしか水位はなかった。だけど、彼女のスカートも靴もびしょびしょだ。
「ありがとう!おねぇちゃん」
「あはは」
子どもたちからお礼を言われて、夢野さんは嬉しそうに笑っていた。
知らず知らずの内に僕は何度かカメラに手を伸ばしている。
「…………本当に、変な子だね。夢野さんは」
「あー誉めても何もでませんよー」
「うん、安心して。誉めてないから」
「ぐっ!」
顔をひきつらせた夢野さんにクスクスと肩を震わせた。……あぁ、おかしい。
「……それでどうするの?びしょびしょだし匂うね」
「え、そ、そう言われてみれば……」
くんくんっと自分を嗅ぎ始めた夢野さんの頭をそっと撫でた。
何故かはわからないけれど、そのまま言葉がすらすらと流れ出たんだ。
「しょうがないね。僕の家でシャワー浴びたらいいんじゃないかな。姉さんの服なら貸せると思うし」
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