ただ純粋に応援したいだけ
「……し、深司くん!」

青学と不動峰の試合が終わって、リョーマくんの怪我のことやら優勝のことやら色々あったわけだけど、私は閉会した後に去ろうとしていた準優勝校不動峰の元へ走っていた。

私の大声に足を止めて振り向いてくれたのはいいが、不動峰の人たちみんながそうしてくれたので、思わずびっくりして挙動不審になってしまう。

「……なに?」

「あ、あのね、お疲れ様です!準優勝おめでとうっ」

「……え、なに……これって嫌み?……否、詩織だから……天然か。あーあ、なんだよ。たち悪いよな……本当」

深司くんは、はぁっと大きな溜め息をついてから、私をじっと見つめてきた。無言のそれにだんだんどうしたらいいのかわからず、そわそわと手の位置を変える。

「……あら、兄さん、この子もしかして!」

「あぁ、杏はさっきいなかったか。あのパンフレットの子だ。……夢野詩織、だったか」

「は、はいっ」

突然声を上げた猫目の美少女に視線を向けたら、橘さんが私を紹介してくれた。……パンフレット、と思い出して目の前の美少女が橘さんと一緒にいた女の子だと思い出す。

「橘杏よ」

「ご、ご兄妹様でしたか……!」

「……お前なんかやっぱウザいよな。言動が」

杏ちゃんの素敵なウィンクにくらくらしていたら、神尾くんが私の髪を引っ張ってきた。

「神尾くんは好きな子の前ではウザくなるタイプだと思う!」

「「「ぶっ」」」

いらっとしたので、反撃だとばかり大声で言ったら、橘さんと杏ちゃん以外のメンバーがみんな吹き出したのでビックリした。何事だ。
目の前の神尾くんは、あわあわと真っ赤な顔で何やら慌てていた。

きょとんとしていたら、深司くんが小刻みに肩を震わしながら、私の肩をポンポンとしてくれる。

「……ぷ、くく。詩織、最高……ふっ、今のは良かったよ。うん、まぁ……笑わしてくれたから、今日のことは許そうかな……」

「え、え?」

「……えっと、夢野さん。こいつらのこと紹介するよ」

深司くんが俯いたまま(静かに)笑い続けて、神尾くんが笑うなと深司くんの肩をがくがくと揺さぶっている間に、鉄くんが不動峰の残りのメンバーを紹介してくれた。

「……内村京介」

「あ、俺は森辰徳!」

「俺は桜井雅也。……夢野って、面白いな」

……不動峰は橘さん以外二年生で、なんとなく仲良くなれそうな予感がしたのだった。






『……おー、今どこだよ?』

不動峰のみんなと別れてから帰宅しようとバスを待っていたら、突然着信があり、出てみたら桃ちゃんだった。
桃ちゃんの後ろから、菊丸さんたちの賑やかそうな声が聞こえてくる。

「……えっと、バス停で──」
「いたいた!おい、夢野っ」
「──え?」

携帯電話の向こうから聞こえる声と、現実の声が重なり、はっと顔を上げた頃には私の体はバス待ちの列から切り離されていた。
ぐっと腕を掴んでいる手を辿れば、桃ちゃんの悪戯っぽい笑顔がある。白い歯が眩しくて目を細めたら、いつの間にか私の周囲には菊丸さんと不二さんがいた。
いや、青学のテニス部のレギュラーさんたちの輪に入ってるよ。これは。

え、え?っと落ち着かなくてキョロキョロしてたら「越前は後からくる予定だからなー」と桃ちゃんに笑われる。
……いや、違うよ。今私が聞きたいのは、なんで私は皆さんに連行されてるのかという……

「にゃはは!今からタカさんちで打ち上げするんだよん!」

「ほ、ほほう。それは素敵ですね!……ってもしかして」

「うんうん。詩織ちゃんも一緒にどうかにゃーなんて……」

「うおあ!私部外者もいいとこですが?!」

「ふふ、夢野さんがいたら楽しいだろうね」

菊丸さんに目を見開いて驚いたら、不二さんの手が私の頭を撫で撫でされたので、恥ずかしくなって俯いてしまった。
ど、どうしよう。誘われたのは嬉しいが、なんかむずむずする。私の心臓が止まるかもしれない。

「夢野さん、無理に付き合わなくていいからね?英二や桃のわがままなんだから……」

「い、いえっ」

優しい大石さんのセリフに私は超高速で頭を左右にぶんぶんっと振った。
何やら先頭を歩いていた手塚さんが、振り向きざまに変なものでも見たように眉間にしわを寄せている気がする。

「……お、誘い頂き、ありがとうございますっ死ぬ気で参加を──」
「え?ま、待って。夢野さん、今死ぬ気っていったかい?!」
「あはは!大石副部長、こいつの発言いちいち真に受けてどうするんっスか」
「……そ、そうか。そうだよな……俺の心配し過ぎだよな」


「……本人は至って本気で言っている確率80パーセント」
「…………フシュー。それ、副部長には伝えない方がいいっスよ……」

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