ただ俺らしく
「……か、薫ちゃん……っ!!」

こんなにも煩い喧騒の中、それでもやけにアイツの声だけは異様に耳に届いていた。
はぁはぁっと肩で呼吸を繰り返していたのを、ゆっくりと元に戻す。

一度だけ出来た大技に頼ろうとしていた俺を注意してくれた竜崎先生を見てから、そのついでにアイツの姿を探した。

間抜けな顔で口を開けたまま、でっけー目を見開いてこっちを凝視している様は、少し笑っちまうほど怖かった。
気持ち悪い顔してんじゃねぇ。海堂薫はこんなもんじゃねぇんだよ。

……そう、負けてたまるか。


「……リズムにのるぜ♪」

またあの台詞を口にした不動峰の神尾を睨みつける。
台詞は小っ恥ずかしいが、確かにコイツのスピードはすげぇ。
だが俺にも誰にも負けねぇもんがあるんだ。

「……フシュウゥっ」

ただ必死に一球を返す。走って走って、ひたすらに。

「……、こいつっ」





「──勝者、青春学園、海堂薫!」

グッと小さく拳を握りしめて、俺は重くなってきた脚を動かしてベンチに向かった。

「……やるじゃん」

生意気な越前の声が聞こえるが、フンッと鼻を鳴らす。
余裕の表情は、どこか楽しげで次の試合へのプレッシャーは何もなさそうだった。

「…………っ」

「……おい」

それから不動峰のベンチを眺めながら、言葉を失っている夢野が立っているフェンスに声をかける。
……神尾たちとも知り合いだったから複雑なのかもしれねぇが、何故かその泣きそうな表情が妙にかんに障った。

「おい、夢野。てめー、また絆創膏持ってんだろ、……くれ」

「……薫ちゃん、……うんっ」

呆けた表情で俺を見つめてから、俺の脚が擦り傷だらけであることに気づいたのか、夢野はへらっと笑う。
その顔にさっき感じた俺の中の妙な感じは、ふっと姿を消したようだ。





「うふふ、どれにする?パンダママシリーズ?それともリボンしてるパンダちゃん?」

「ま、待て!もう少し普通のパンダにしろ!ハートとかそんな装飾いらねぇんだよ!!聞いてんのか?!」


「…………まだまだだね」
「……ふむ。ブーメランスネイクの練習法について教えてやろうと思ったんだが。海堂も夢野に感化されてきているんだな。……面白いデータだ」
「…………な、なんだろう。手塚。胃が痛くなってきたよ……は、はは」
「大丈夫か、大石」

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