真剣な試合
「……す、ごい……すごいすごい!!」

やはり決勝戦となるとこんなに白熱するんだろうか。
本気の気持ちのぶつかり合いってすごい。

不二さんの技もすごかったが、今し方鉄くんが放った波動球という技もすごかった。
それを返した河村さんもすごいし……なんだろう。テニスの試合風景に疑問もあるが、こうワクワクと気持ちが高揚してくる。


「……棄権します」

すごいすごいと繰り返している内に、試合中の不二さんがそう言った。
え、と息を飲んで河村さんを見れば確かにすごい脂汗が浮いている。
どこか顔色も悪いし、さっきの波動球を返した時に腕がどうにかなってしまったのだろうか。

「…………」

なんというか先ほどまでの興奮はどこへやら、急に冷静になってきた。
最近の感覚がどうやらずれてきていたらしい。

ちょっと待て。
何その威力。
あれ?テニスってそんな殺人的なスポーツだったっけ。っていうか、あの爽やかな鉄くんがそんな馬鹿な。恐ろしい。鉄くんは怒らせちゃいけないかもしれない。

あれよこれよというまに不二さんと河村さんが棄権した。
病院に行くという河村さんがフェンス内から出てこられたので、慌てて近付く。

「あ、あの、大丈夫ですか?もしかして一人で病院に……?」

「あぁ、夢野さん。……ハハ、せっかく応援に来てくれたのにごめんね。……うん、今からちょっと行ってくるから、俺の代わりに試合を見といてくれるかい?」

力無く笑った河村さんに「病院まで付き添いましょうか」と口にしようとしたのに、先手を打たれてしまった。
そんな真剣な顔で言われては、大きく頷く以外にないじゃないか。

「任せてくださいっ!河村さんに後で説明できるよう食い入るように見ておきますからっ」

「ハハッ、……頼んだよ」

ただ相手が不動峰なので、応援したい気持ちは同じくらいですみません!と謝罪を続けたら、夢野さんらしいねとまた笑われたのだった。





暫くして、青学のゴールデンペアである菊丸さんと大石さんの試合が始まって。
不動峰のダブルス1の人はどちらの人も知らない人だったので、なんとなく薄情だけど、菊丸さんたちを応援してしまう。ごめんなさい、深司くん。

その試合でも、確かにすごいと思うことばかりだったが、知らず知らずの内に盛大にツッコミを入れてしまっていた。
隣の堀尾くんに「夢野さん、煩いっすよ」と言われてしまった時は、あまりの驚愕に死ぬかと思った。げせぬ。



「シングルス3の選手はコートに入りなさい」

審判の人の声が響き、不動峰からは神尾くんが出てきて、青学からはゆらりと薫ちゃんが立ち上がる。

「薫ちゃん、頑張ってー!神尾くんはさっき馬鹿って言ったから応援してあげないもんねー」

「てめぇっ!その呼び名を大声で口に出すんじゃねぇっ!!馬鹿がっ」
「お前の応援なんかいらねぇよ!つか、お前は深司をどうにかしろ馬鹿っ!」

神尾くんが怒って返してくるのはわかっていたが、純粋に応援したはずの薫ちゃんにまで馬鹿と言われて泣きたくなった。

……だが私はめげぬとも。河村さんに後で状況が浮かぶくらい素晴らしい説明を口でするんだから。

気合いを入れていたら、どうやらまた独り言になっていたらしく、こっそり抜け出して河村さんが行った病院に向かおうとしていた桃ちゃんに頭を軽く撫でられたのだった。
……油断していたので、その時の笑顔の桃ちゃんがやたらイケメンに見えてドキッとしたのは内緒である。

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