教えてくれた柳生さんのメールに返信してから、他の立海テニス部メンバーにもメールをした。
そのメールのタイミングは、菊丸さんにジュースを奢ってもらって、何やら柿ノ木中の偉そうな人が手塚さんに絡んでいた後だ。
それでも決まるのが早いなぁ。さすが王者立海と妙に感心していたら、青学の準決勝もスピーディーに終わってしまって呆気に取られたのである。
「……な、なんと」
そして私は今も開いた口が塞がらないまま、呆然としていた。
青学のレギュラーの皆さんと普通に会話していたら、堀尾くん、カチローくん、カツオくん、という青学一年生トリオの子たちとも仲良くなったわけだが、その堀尾くんの背後に今黒い集団が立っているのである。
その集団は青学の決勝の相手であり、まさかの深司くんたちの学校、不動峰だったのだ。
「あー?!お前、なんで青学のやつらといるんだよ?前、うちの学校来たとき氷帝の制服着てたじゃん!なぁ、深司?」
「……ひ、人違いじゃないでしょうか。私、リズムの人とか知り合いにいないし」
「……神尾をリズムの人って呼ぶのパンダ──いや、詩織だけなんだけど。……なんだよ、そこまでして俺らと知り合いだと思われたくないのかよ……心外だな。むしろ傷ついたかも……あーぁ」
「うわぁあん、深司くんごめんなさいっ!傷つけるつもりはないでございまするっ」
リズムの人もとい神尾くんに指を指された時は人違いだと言い張ろうと思ったのだけれど、深司くんに寂しそうにため息をつかれてしまっては白状せざる負えなかった。
決勝戦校の緊張が走る対面のはずなのに、馬鹿な私が混じっていたせいで空気が壊れたらしい。
何やら数人から苦笑されている。そして乾さんには「ほう……」とまたいらぬメモを追加されてしまったようだ。
「……、手塚だな」
「……」
一瞬、短髪で額に黒子のある人が深司くんと話す私を驚いたような顔で見つめていた気がするが、すぐに目線を外すと手塚さんに握手を求めていた。
リョーマくんや桃ちゃんに「また、どういう知り合いなわけ?」と詰め寄られつつも、私は何故かその黒子の人から目が離せない。
何かが記憶の断片に引っかかる。
「俺は不動峰の部長、橘だ。いい試合をしよう」
「あぁ──」
「あぁあぁっ?!」
「──っ、夢野?」
黒子の人──橘さんと熱い握手を交わしたまま、手塚さんが眉根を寄せながら私をジロリと睨む。というより、他の人たちにも「いい加減にしろ」という怒りのような、呆れたような視線を向けられていた。
だができるならば、私も叫びたくはなかった。もうそろそろ空気を読み、静かにしていたかった。だけど、これは神様が悪戯過ぎる。
「……あぁ、あ、あの、和太鼓コンサートの──」
「あぁ、やはり。あの時は本当に助かった。まさか深司たちと知り合いだったとは思わなかったが……あの時のパンフレットは大切に保管している」
「え!橘さんっ、この馬鹿……いや、コイツと知り合いだったんすか?!」
神尾くんめ、また人を指さすか。しかも馬鹿って言ったな馬鹿って!
神尾くんにむぅっと唇を尖らせていたら、橘さんが穏やかな笑みを私に向けてくださった。
それからすぐに沈黙したままの手塚さんに頭を軽く下げてから「そろそろ行くぞ」とその場を去られる。
不動峰の人たちが通り過ぎる際に、深司くんと神尾くんに両左右から頭を小突かれた。地味に痛い。それから鉄くんに苦笑いで会釈される。他の不動峰の人たちには、滅茶苦茶凝視された。
「……それで詩織センパイ。どういう関係なわけ?」
「それは俺も聞きたいにゃ〜」
「そうだね。ふふ、僕も少し興味あるかな」
とりあえず誤魔化すようにへらっと笑みを浮かべてみたのだった。
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