この胸中を語るには
「腹立つと思わねー?青学の応援に行くなんてよ」

ぶつぶつと先ほどから文句を繰り返している丸井君に桑原君が「まぁ仕方ないだろ。向こうは東京なんだから」とフォローをしていた。

真田君を先頭に並木道を歩きながら、私たちは幸村君が入院している病院に向かっている。
既に県大会出場に駒を進めている私たちは、何事もなければそのまま関東大会出場も決まることでしょう。

「……でもあれっすよね。なんでアイツは氷帝の応援に行かなかったんすかね?」

「……ふむ。それに関しては跡部の驕りのせいだろうな。どうやら、氷帝は地区予選にレギュラーを一人も出していない」

「……またか。それで負けたら面白いのう」

「そうだな。だが、負ける可能性は極めて低い。……まぁ、夢野はそこも引っかかって青学の応援に行ったんだろう」

「だが跡部の判断も間違いではない。準レギュラーが勝つという信頼があればこそだろう。それに試合の機会をレギュラー以外に与えることもいいことだ。……ふん、跡部も侮れんな」

柳君の台詞に、先頭の真田君が鼻息を荒くしてそう続けた。
確かに彼のいうことも一理ある気がします。
ですが……

「……俺、あの王様跡部君がそこまで考えてるように思えねーんだけど」

「っす。俺もただの自信家なだけなんじゃねぇかと……」

「そうですね。……どちらにせよ、自信家であることは代わりありませんね」

くいっと眼鏡を指で押し上げて苦笑した。

それとほぼ同時に、制服の内ポケットに入れていた携帯電話が震えたので取り出してみる。

「……あ」

「どうかしたんか。やーぎゅ」

私の肩に顎を乗せて、人の携帯を覗こうとする仁王君に注意してから、ふっと笑みを零す。

「……いえ、噂をすれば……と思いまして」

「え?!柳生先輩、氷帝の跡部さんとメル友ッなんスか?!」

「まさか、違いますよ」

「……夢野か」

「えぇ」

小さく柳君の言葉に頷けば、驚いたような顔をしていた切原君の表情が複雑そうなものになっていく。

「今朝、丸井君と同じように青学の応援に行くというメールを彼女からいただいていたので、私たちは既に県大会出場が決まっていることをお伝えしていたのです」

だから、おめでとうございますとお祝いの言葉をくれたんですよと伝えたところで、まず丸井君の携帯電話が着信音を鳴らし、次に桑原君も「お、メールか」と懐から携帯電話を取り出していた。

「……ふむ、どうやら俺たち全員におめでとうメールを送信してきたようだな。しかも丁寧に一人一人に一言添えて、か」

「そうみたいですね。夢野さんらしい気遣いです」

「いや!納得いかんナリ。何故、俺だけ一言がプリッ、だけなんじゃ!ブンちゃんにはケーキバイキングがどうたら書いとるんに、ズルいナリっ」

「な、なんだよ!人の携帯覗いてくんなよぃ!さっき比呂士くんに怒られてたくせにっ」

ぎゃあぎゃあと騒がしくなる二人を見ながら、ふぅっと息を吐き出す。

……何故でしょうね。
自分で発言した通り、全員にメールを送ってきた夢野さんの気遣いは、彼女らしくホッとする行為で。
だけど、ホッとしながらもどこか寂しいような残念な気持ちになるのだ。

「……まったく」

空を仰いで、誰にも悟られぬようにきゅっと唇を噛んだ。

彼女とこうしてメールできるだけでも満足だと思っていたくせに……いつの間にか、それでは気持ちが満たされぬようになっているとは。
人間はなんて強欲なんでしょうか。

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