阿吽の呼吸で
「……うまいことダブルス、やつらに当たったのはいいけどよ」

「なんで詩織センパイ、向こうの二人と知り合いだったわけ」

「ちょ、竜崎先生に正座させられて説教受けた腹いせを何故二人は私に?!か、薫ちゃぁあんっ、桃ちゃんとリョーマくんが怖いよぉぉっ!健気に応援に来た私になんたる仕打ちっ」

「……おい。アンタ、うるさいからそれ以上叫ぶな」と海堂に溜め息をつかれて見捨てられた夢野は、今度は河村先輩と英二先輩に助けを求めていたが、苦笑いを返されていた。
たぶん、越前の表情があまりにも真剣なので笑うしかないのだろう。
……まぁ俺も越前に便乗して夢野につめ寄っているわけだが、さすがに越前ほど本気で怒り口調というわけではない。つか、半分その場のノリである。

「泉さんたちは、この間たまたま見つけたストリートテニス場で知り合いになったのです。親切な人たちだったよ」

「……へぇ。俺にはあの人たち下心あるように見えたけどね」

「ふむ、その確率は高いだろうな」

越前が意味深に肩をすくめたところで、乾先輩が俺の隣に立った。思わずギョッとしてしまったのは内緒だ。

「そ、そういえばリョーマくんは次、桃ちゃんはその次の試合がお休みなんだねぇ」

「……話題変えようとしてそれかよ!」
「詩織センパイってほんっとうにアホだよね」

越前と同時に夢野の頭を左右から小突く。
深い溜め息を吐き出した越前はもう呆れているといった感じだった。
否、だが流石に俺も呆れる。
さっきの一回戦目にやった恥ずかしい越前とのダブルスなんか思い出したくねぇんだよ。傷を抉っちゃいけねーなぁ、いけねーよ。



「……夢野、お前は氷帝の試合は見に行かなくていいのか」

「そうだよ。夢野さん、越前たちが無理を言ったんだとしたら……」

地区予選準々決勝が始まるまでの間、少し他の試合でも見学しようかという話が出たところで、不意に手塚部長が夢野に口を開けた。大石副部長も胃が痛そうに続けている。

「え?あ、はい!氷帝より青学ですよっ青学!さすが青春学園っ」

「…………そうか」

……なんだ。このテンションのかみ合わない会話は。
手塚部長はヘラヘラ笑って答えただけにしか見えない夢野の台詞に真剣な表情で頷くし。あまりにもシュールである。

「ふふ、ところで夢野さん。喉乾いていないかい?」

「あ、そういえばさっきの皆さんの試合中、興奮して叫び続けたから、喉からからでした!」

「……まだまだだね」

「え!まさかここにその台詞?!」

「詩織センパイってさ、疲れない?……ムダに大声出し過ぎ。てか、なんでもかんでも声に出しすぎだし。……後、メールで今日はポニーテールにしてきてっていったのにしてないのはなんで?」

「うぉお、何このダメ出し。後、リョーマくん、ポニーテールにどんなこだわりがあるのっ!まぁしてこようとしたら髪ゴムが朝見つからなかったんだよねー」

「……本当に女なわけ?」

「な、なんだとう?!」

不二先輩がしーんと静まっていた空気を変えるように夢野に話しかければ、また越前との妙な漫才が始まる。
つか、越前のやつ、夢野の前だったらよく喋るよな。俺と話してるより口数多い気がする。

夢野も、越前と話している時は普段よりも流暢に会話している気がした。というか、越前が年下だからか妙な遠慮がねぇっつーのか。
……俺と話す時は、どこか緊張してんだよな。まだ。


「ハイハーイ!ストップストップぅー!!おチビも、夢野ちゃんもこれでも飲んで落ち着くにゃー」

「……ッス」

「おぉ、菊丸さん、ありがとうございますっ」

夢野が喉がからからと言っていたからか、英二先輩はジュースを奢ってやったようだ。
越前の分まで奢るんなら、俺もちゃっかり奢ってもらおうかなと考えたところで「ほいっ。おチビは百二十円」と手を差し出していたので諦めた。



「……なぁ、夢野」

「ん?桃ちゃん、どうしたの?」

「否、なんつーか、お前の頭って肘置きにちょうどいい高さだよなーって」

「…………これ以上縮んだら覚えてろよ……」

「ハハッ、こえーこえーっ」

……とりあえず、距離感がもどかしいなら、俺から近づけばいい話だよな。

35/79
/bkm/back/top/
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -