始まりの鐘
──地区予選が始まるらしい。

ここ数日、何やら学校中がテニス部の話題だらけだなと思ったら、報道部であるちーちゃんが丁寧に説明してくれた。
畜生、お隣さんだというのに若くんはこんな大事なことを何故話題として出してくれなかったんだ!!

「……お前に関係ないだろ」

「ぐぎぎ、友達なのにっ友達なのにっ」

「やめろ、大声で連呼するな!恥ずかしいだろっ」

狼狽え始めた若くんに調子に乗って教室内で騒いだら、堪忍袋の緒が切れたらしい若くんに数学の教科書で頭を殴られた。超痛い。あまりの痛さに涙がほろりと零れ落ちるぐらいである。

「ひ、日吉くんが詩織ちゃんを泣かせた……っ!」
「なっ!ばっ、及川っ、これはっ」
「おいおい、日吉ー。夢野さんに謝れよー」
「っ、お前らまでっ」

タマちゃんを代表に何故かクラスメートほぼ全員にからかわれた若くんは、なんだかんだで愛されていると思う。
だけど、本人はみんなの冗談が通じなかったのか酷く焦った顔で私にハンカチを差し出してくれた。仄かにお香の良い匂いがする。

「こ、これを使え。っ、それから少し強くし過ぎたようだ……悪かった……」

「……ぷっ」

真っ赤な顔で優しい声音を出した若くんに私は耐えきれず吹き出してしまった。
いやだって、なんかもう。若くんが可愛すぎる。萌え死にそうなぐらいだ。

「ならそのまま死んでくれ……っ」

「ぎゃー、若くん、本気で首しまってるっぎ、ぎぶ、ぎぶぎぶっ」

……ちょっと本気で若くんを怒らせてしまったようです。






《詩織センパイ、俺らの地区予選見にくるでしょ?》

テニス部で慌ただしいだろうから、榊おじさんにヴァイオリンを見てもらうこともせず、一人で練習していたらそんなメールがリョーマくんから届いた。

そういえば、うちの氷帝とは青学の地区予選は違っていた。
ちなみに若くんに氷帝の応援に行くと言ったら、地区予選には氷帝のレギュラーと準レギュラーでもレギュラー補欠になっている若くんは出ず、完全に準レギュラーの人たちで出場すると教えてくれたのである。

それってスポーツマンとしてどうなの、ともやもやしたのだけど、決めたのは榊おじさんと跡部様らしいので、若くんにはそれ以上つっこめなかった。


《うんっ、なんか不燃焼だから絶対応援にいくよ!》

《意味わかんない。……でも来てくれるなら、いいかな。じゃあ時間と待ち合わせ場所だけど──》


リョーマくんとのメールのやり取りをしながら、私はいつの間にか眠りについた。

この時、パソコンを起動させていたら、いつものチャットルームにいた伊武さんに青学と不動峰が同じ地区であることを教えてもらえたかもしれない。

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