一体何回このメールを読み直しただろう。
だからその日家に帰って風呂に入る頃には、もうメール内容が頭ん中に一語も間違えずにインプットされちまった。
「……はぁ」
俺はニヤニヤと緩みそうになる口元を抑えるために風呂の湯に顔面をつける。
ブクブクブクと泡を吹き出しながらも、やはり表情は緩んでしまう自分に嫌気がさす。と同時に夢野のことを思い出して胸を高鳴らせていた。
……一体どういう意味なんだろうか。
あのメール文通りに、夢野がいつも俺を思ってくれてるっつぅーことなのか?
い、いやいや待て。
夢野とまともに喋ったのは、あの合宿が初めてだ。
そう、初めてで。
メールしたのだって今日が初めてだし、内容は部活中だと知らせるやつだけ。
「……ぶっはぁ!」
息を止めていた俺は苦しくなって顔を水中から上げた。
意味がわからなくて、頭の中は大混乱で。
妙に落ち着かないこの胸ん中……。
だから、夢野に返事は返せないままだ。
「〜〜だって、なんて返事したらいいんだよっ!あーっもう!なんなんだよ、アイツは!!」
調子狂うんだよ!
湯に拳を叩きつけたら、ばしゃっと激しく水滴が散らばった。
……ただ、イライラするのにどこか心地いいこの感覚を、嫌だとは不思議と思わない。
だからだろうか。
その夜は布団の上に倒れ込むと同時に、ぐっすりと眠ってしまったのだった。
「切原ー、きーりーはーらー」
「あ?な、なんだよ、三船……」
「なんだよじゃない!アンタ、詩織泣かせたら、陸上部で鍛え上げたこの脚で股間蹴り上げるからね?」
「っ、な、意味がわかんねぇぞ?!」
夢野からのメールの意味を理解することになったのは、次の日朝練終わりのホームルーム前の時間にだった。
隣の席の三船から放たれる黒いオーラが滅茶苦茶怖い。
しかもその三船から発言された夢野の名前に思わず動揺してしまった。
「……ふっ。言っとくけど、詩織の好みは優しい人なんだからね。アンタ、その時点でスタートダッシュに遅れてるわけよ」
「……ど、どういう意味だよっ」
「教えてほしければ、ジュース買ってきて。喉乾いた。それから、私のことはこれから三船様か流夏様とお呼びなさいな」
勝ち誇ったような三船の表情を見て、俺はさぁっと血の気が引いたのだった。
…………自分の気持ちに気づいたと同時に、もう俺の平穏無事は少なくとも三船の隣ではなくなったのだと思い知らされたのである。
《……三船の弱点を教えてくれ》
《え!流夏ちゃんは大金に弱いんだよー。後、切原くんがそんなメールしてきたら、百万払ったら放っといてあげてもいいと伝えてって言われたー》
《…………夢野、お前なんか嫌いだ》
《え?!わ、私は切原くんのこと好きだよ?!せっかく友達になれたのに、……私何かした?!》
「………………夢野詩織のアホ……っ」
とりあえず、その夜実は三船よりも夢野の方がたちが悪いんじゃねぇのかと思った。
33/79