素直に吐き出せたら
──意味がわからねぇ。
なんで俺がさっき会ったばっかのヤツらを送んなきゃいけねぇんだ。

「じゃあ私はここでいいから」
「ま、るるる、流夏ちゃん、ま、まままっ」

あのくそババアに対してブツブツ文句を口にして歩いて駅まで向かったら、前でそんなやり取りが行われていた。

三船とかいう、短髪の方の女が駅でいいとかいっていたがどうやら長髪の方は電車には乗らねぇらしい。酷く情けない声を出しているのが、微妙にイラッとした。

「…………ふんっ」

二人が何やら会話をしている間に俺は踵を返して、その場を離れる。
駅までついて来てやっただけでもありがたく思え。正直に言えば、どう途中でバックレようかと思案していたわけだが。



「亜久津仁さん、亜久津仁さん」

「……ぶん殴るぞ?あぁ?」

つか何しに後を追って着やがったんだ。
意味がわからねぇ。あと、フルネームなのも一々かんに障る。

長髪(名前を忘れた)に振り返って睨めば、女は大きく飛び跳ねてから近くにあった電信柱に抱きついた。

「すみませんすみません。ただ私の家まで送っていただかなくても……と」

「……はぁ?」

眉根を寄せ、道路の真ん中で立ち止まったまま間抜けな音を吐き出しちまう。

だが本当にこのチビの言葉が理解できない。
俺はただバックレようとしただけだ。

「……てめぇん家、どこだよ」

「え!その先のマンションですが!」

指差した方向は、交差点の先だった。
交差点にあるコンビニを左に曲がるらしい。
……よし、俺は右に曲がってやる。

たまたま道が一緒になっただけだ。勘違いすんじゃねぇぞと凄みをきかせ脅してやってから、俺はふっとコンビニ前にたむろしているヤツらを視界に入れた。
道路にまでその短い脚を伸ばして、ケラケラと煙草を吸っているヤツらはどうやら知っている高校のヤツらだ。
何度か喧嘩をふっかけられ、その度にボコボコにした記憶がある。
確かもう俺の顔を見たら道をあけていたはずだ。


「亜久津仁さん、ありがとうございましたー優紀ちゃんによろしくです」

「…………ちっ」

気の抜けるような間抜けな声が去ろうとした俺の背中にかけられた。
妙にイライラして、舌打ちをしてから間抜けなチビの頭を急いで鷲掴みにする。小せぇ頭だ。脳味噌詰まってんのか。

「い、いだっ、あああ亜久津仁さん、拙僧は食べても不味いでござるよっ」

「てめぇ坊主でもなんでもねぇだろ。後、苗字か名前、どっちか一つにしろ……それから俺はこっちに行かなきゃいけねぇのを思い出した」

だから俺の前を歩くな。間抜けが前を歩いていることが不愉快だ。てめぇは後ろをひっそりついてこいっと睨みつける。


「……うぅ、私は間抜けじゃなくて夢野詩織ですよ、仁さん……」

おとなしく後ろをついてきた間抜けなチビがぽつりとそう漏らしていて、思わず噎せたが、取り敢えず俺から目線を逸らして小さく固まる群れたヤツらが視界に移ったので、聞き流すことに決めたのだった。


……否、だがそっちかよ。ビビりのくせに変な女だぜ。

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