優紀ちゃんと……
「おほぅ、っ、んぐんぐ、おひしいでふっぐ」
「詩織、口の中のもの全部飲み込んでから喋りなさい」

酔っ払いさんに絡まれていたウェイトレスのオネエサンにハンバーグプレートをご馳走して貰っていたのだが、あまりにも美味しかったので感動を伝えようとしたら、流夏ちゃんに怒られた。
ついでに口の周りもふきふきされる。

「ふ、あははっ!なんだか二人って年の離れた姉妹みたいねっ」

「はい、手の掛かる妹って感じです」

取り敢えず二人が楽しそうに話しているので、何も発言はしまい。確かに流夏ちゃんにはいつも迷惑かけているし。



暫く黙々と食べていたら、不意にチーズケーキまでテーブルの上に並べられたので吃驚した。
顔を上げれば、オネエサンがウフフと笑っている。

「お、オネエサン?!」
「ケーキまで……!」

流夏ちゃんもこれは遠慮しますと続けるが、オネエサンは譲らなかった。

「あ、ありがとうございます。オネエサ──」
「ふふ、優紀でいいわよ。さん付けよりもちゃん付けでね!その方が可愛いから」
「──優紀ちゃん!!」
「こら」

ウィンクした優紀ちゃんが可愛かったので興奮気味に名前を連呼したら、流夏ちゃんに頭を叩かれる。
だが、優紀さんと呼んだ流夏ちゃんに頬を膨らませて拗ねちゃったので、やはり優紀ちゃんが正しかったようだ。


「…………おら」

「あ、ちゃんと買ってきてくれたのねっ!仁くん、ありがとうっ」

優紀ちゃんと仲良くなっていたら、突然ガラの悪そうな男の子が店に入ってきた。
しかも、何故か優紀ちゃんに近付いてきて、新品のハンドクリームを差し出しているではないか。優紀ちゃんも何やらフレンドリーだし……。
もしかしたら、雰囲気だけが悪そうで実は怖くない人かもしれない。

そうだ。すごい目つき悪いけど、きっといい人なんだ。

「あぁ?さっきからてめぇ何ごちゃごちゃ言ってんだ?うるせぇんだよ、後じろじろ見てくんじゃねぇっ」

「うぉお、前言撤回!めちゃくちゃ怖い!」

そして全部口に出してる自分が一番怖い!若くんの言うとおり、そろそろ病院に行った方がいいかもしれない。え、あれ、私定期的に通院してるじゃないか。

「詩織、落ち着いて。それからアンタ、この子は小心者の天然なんだから苛めないでくれる?苛めていいのは私だけなの」

「そうよ、仁くん!この子たちは私の恩人なんだから……!ずるいわ、私も詩織ちゃんを困らせたい!」

「なんか二人ともさり気に酷いよ?!」

思わず叫びながらつっこんでしまった。
否、だがどういうことだね。私には意味が分からないんだけど。

当然、ガラの悪い人は二人と私の勢いに少し動揺していた。
なんというか、微妙に狼狽えたのが可愛く見える。これぞギャップマジックだ。
だけど、このガラの悪い人は優紀ちゃんとどういう関係なのか。

「うふふ、私の自慢の息子!亜久津仁。仁くん、あっちが三船流夏ちゃんで、こっちが夢野詩織ちゃん」

「っ、わかったから、腕を絡めんじゃねぇ!くそババア!」

「誰がババアよ?!」

確かに優紀ちゃんは若々しいのでババアという言葉は不釣り合い過ぎる。
泣き真似を始めた優紀ちゃんに舌打ちした亜久津仁さんは、やはり母親には弱いのだろう。
よかった、ここにも中学生の部分が残っていた。これでなんとか目を合わせられるかもしれない。

「だからうるせぇっつってんだろ!ビビってんならわざわざ目をあわせてくんじゃねぇよチビが!」

「だから詩織を罵っていいのは私だけだって言ってんでしょ!」

「あぁ?!」

騒がしくなった喫茶店内。私はそっと最後のチーズケーキのひとかけらを口に放り込む。

取り敢えずいろいろ流夏ちゃんにはツッコミをいれたいが、今口を挟めば堂々巡りな気がしたので、本当に口を閉じた。

それから暫くして、心底驚いたのは、優紀ちゃんが私たち三人をしみじみと眺めながら発言した言葉にである。

「……ふふ、仲良くなって良かったわ。なら、仁くん、もう遅いから二人をお家まで送っていってあげて」

……私なんかよりも、遥かに優紀ちゃんの方が天然だと思った瞬間だった。

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