「え!流夏ちゃん、もしかしてまた髪切ったの?!」
「うん。煩わしかったんだよね、前髪」
前に会った時よりもまたさらに男前になっていた流夏ちゃんに、わけがわからず拍手してしまう。なんだろうか。もうここまでくると、いっそ清々しい。
「詩織は伸びたねぇ……可愛いからいいけど」
「うむ、詩織は長い方が似合うだろう」
「…………」
流夏ちゃんが私の髪をなでた後に、何故か前を歩いていた榊おじさんが決め顔で振り向いたから、なんて言ったらいいのかわからなかった。
前から薄々感じていたが、おじさんは姪っ子に甘いらしい。
恥ずかしいが、私をとても大切に思ってくれているのが伝わるので、嫌な感じはなかった。
「……来たぞ、二人とも」
数分歩いた後、目の前には立派な墓石が立っている。
まだ真新しいそれは、榊おじさんが立ててくださったものだ。
腰を折り曲げ、私の両親に話しかけているおじさんの後に続いて、私も「お父さん、お母さん」と声をかける。
流夏ちゃんは後ろで「おじさん、おばさん、お久しぶりです」と頭を下げていた。
榊おじさんが墓石に順番に水をかけてあげてから、私も流夏ちゃんも同じように真似る。
それから胸に抱いていた白いカーネーションの花束を墓石の前に捧げた。
「……母の日のことちゃんと覚えてたんだからね。一年……あいちゃってごめん」
でも、私も意識不明の重症だったから許してと笑ったら、榊おじさんに優しく頭を撫でられた。
まるで生きている頃にお父さんが撫でてくれたみたいで、一気に目頭が熱くなる。
そんな時だ。
不意に胸ポケットに入れていた携帯電話が震えた。
《今部活中。アンタは?》
メールを開けば、内容はたったそれだけ。
「……はぁ?切原っ?!」
「うわっ!流夏ちゃん、覗いちゃだめでございまするっ」
「チラッと見えただけよ。っていうか、いつの間に切原とメールしてるわけ」
「ひぃ、いひゃい!……切原くんから初めて送られてきたよ!本当にこれが初っ!」
頬を抓られて、さっき溢れてきていた涙が一滴零れ落ちた。
「まぁいいか。切原なら明日問いただせるし……」
ニヤリと不敵に笑った流夏ちゃんはどうみても悪役である。
切原くんが明日無事に一日を平穏に過ごせることだけを願いながら、私はそっと返信したのだった。
《今墓参り中。私、切原くんの無事を祈ってるっ!》
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