私のヴァイオリン
──立海でもそうだったけれど、私がちゃんとした部活に入らないことには理由がある。

……私は、
私の音色は、どうも人と合わないのだ。

広いリビングで一人ヴァイオリンを抱きながら、私はきゅっと唇を噛み締めた。


私はいつもマイペースで。
そのペースは、かなりの確率で周囲の人を振り回すらしい。

加えて、私は人付き合いが苦手だ。

独り言が多いのも理由の一つかもしれないけど、私はいつもある一定の距離から目線を外す。

踏み込みたくもないし、踏み込まれたくもない。

それは過去に、心をたくさんの人に許した時、見事に裏切られた経験があるからかもしれない。


……ううん、流夏ちゃんみたいに、きちんと向き合える、そんな信頼関係を築ける人がいるのもわかっている。

きっと私は、怖がって逃げているだけなんだろう。


《──Eveさんが入室しました》

「……あ」

ヴァイオリンを大切にケースにしまい、リビングのパソコンのウィンドウを見た。

見知った名前にテンションが上がる。

帰ってきてからずっとあるチャットルームにログインしていて、そのチャットは入院していた頃からよく利用していた。

顔が見えないこの世界は、人付き合いの苦手な私にとってかなり楽な世界。

独り言が口から出ても相手には聞こえないし……

《Eve:どうかした?》

《パンダ:ごめん!独り言を減らすにはどうしたらいいかな?》

《Eve:……いきなり何?》

《パンダ:私……独り言多いって言われるから、ちょっと気にしてたの》

《Eve:ふぅん。でも出るものは仕方ないんじゃない?……俺もよく独り言出てて、ぼやきが始まっただなんて言われるし……っていうか、リズムリズム煩いやつに言われたくないんだけどさ》

《パンダ:リズム??》

《──善哉さんが入室しました》

《Eve:スピードに自信があるやつなんだけど……》

《善哉:パンダ、久しぶりやな。……って、なんの話や》

《パンダ:お久しぶり!えっと》

《Eve:部活仲間にそんなヤツがいるって話》

《善哉:ふーん。うちの部にもおりますわ。浪速のスピードスターとか恥ずかしい……、ヘタレのうっざい先輩が》

《パンダ:そ、そうなんだ。そういえば、ちょっと前に深夜にチャットした子もテニス部だっていってたよ》

《Eve:ふぅん。あ、俺、少し席外す》

《パンダ:はいー》

《善哉:おん。……で、パンダ、なんで暫くここに顔出さんかったん?》

《パンダ:引っ越す準備とかでねー。色々大変だったんだ》

《善哉:はぁ、めんどそうやな》


暫く善哉さんに話し相手になってもらった。

すぐにEveさんも戻ってきて、会話に入ってくれる。

最初はなんとなく始めたチャットだったけれど、特に同い年だというこの二人とは、とても気が合っていた。

チャットでも言いたいことをはっきり書いてくる二人なので、現実でもすぐ口や態度に出るタイプなのかもしれない。

だとしたら、流夏ちゃんと一緒だ。

うん。
本当に仲良くなれそうな気がしてきた。


そういえば、親しくしてくれている篠山さんもそういうタイプだなと思って、すぐにお隣さんの日吉くんのことも思い出した。

……あぁ、彼もはっきり告げてくれるタイプだ。


「……意外と楽しくやっていけるかもしれない」

ぽつりと呟いたセリフは、誰もいないリビングへ静かに落ちる。

……流夏ちゃんみたいな関係まではいかなくても、それなりには暮らしていけるかもしれないと、そう笑みを浮かべた。

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