「や、やめろって!侑士っ!くそくそ、俺も笑っちまうだろ……っ!つかいつものポーカーフェイスはどうしたんだよっ」
肩を小刻みに震わしながら、必死に笑いを堪えている岳人には悪いけど、これわざとや。
否、わざとっちゅーのは、態度に出してることで……彼女がおもろかったんは本当やけど。
あまりにも俺らが笑うからか、跡部が睨んできた。あかん、余計ににやけるから、こっち睨まんといて。
視線を外してから、さっきの子が歩いていった方向を見る。
なんやあの子、壁と睨めっこしとるやん。
まぁ……しゃーないか。注目の的やもんなぁ。
「……樺地」
「ウス」
「あの女は──」
「──俺のクラスに転入してきたヤツですよ」
跡部の声に被せるように、今まで黙々と食事を取っていた日吉が答える。
「え!彼女があの……奇跡の少女なんだ?」
「……長太郎、あんまジロジロみんなよ。激ダサだぜ?」
「あ、すみません。宍戸さん。確かに……失礼ですよね、俺」
ふぅん、あの飛行機事故の唯一の生存者っちゅー子やったんか。
跡部とのやり取りを思い出してから、俺はまた笑ってもうた。
といっても、今度は心の中でや。
『というか自意識過剰過ぎるよ、跡部様。アーンって鳴き声ですか、跡部様』
面と向かってあの跡部にそないなこと言うお嬢さんは初めてやった。
しかも末恐ろしいことに、無意識に口走ってるっぽいんがさらにおもろ……否、興味を引くっちゅー話や。
「……ふん、夢野詩織……榊監督の姪っ子か。聞いてた話とは違うな」
「「「は?」」」
ずっと口を開かなかった跡部は、大層ご立腹やねんやろうなぁと思っていた俺らは、アホみたいな音を同時に口にしてもうてた。
日吉までっちゅーのは、珍しい。
まぁ、ジローは相変わらず寝とるけど……
「あぁ?なんだお前ら。俺があんな女の台詞を気にしてるとでも思ってたのか?」
「い、いやいや、それより今なんて?俺、耳悪ぅなってしもうたかもしれへん。なんや監督の名前が出たような……」
「だから榊監督の姪だ。監督から話は聞いていたが、直接関わったのは今のが初めてだ。ちなみに現在の保護者は榊監督らしい」
なんやて?
あの万年スーツ姿のおっさんの姪っ子やて?
嘘やろ……
「……あかん、さらにおもろ過ぎるわ」
俺が漏らした台詞に、妙に日吉が冷たい視線を向けてきた。
それを滝が愉快そうに見ている。
なんや……ようわからんけど
ちょっかい出したくなるやん。
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