母の日に
──チャット後、私は次の日の墓参りの連絡を榊おじさんと流夏ちゃんにメールで回した。

流夏ちゃんは陸上部の練習を午前だけ出させてもらうとのことだったので、午後から私の両親が眠る霊園で待ち合わせることになった。
榊おじさんとは、お昼ご飯を一緒に食べてそのまま一緒に向かう予定である。






「……あったあった!」

一晩明けた日曜日。
私は榊おじさんとの待ち合わせ場所に向かう前にインターネットで検索していた花屋さんを探していた。
というのも、母の日なので、墓前に飾る花はカーネーションがいいかなと思ったのだ。

その花屋さんは、最近出来たばかりの新店舗らしく、綺麗な店内に珍しい花がたくさん並んでいる。

さすがに母の日の当日。カーネーションは普段よりも少し高い値札がつけられたバケツに入れられていた。

「……でも、母の日になんでカーネーションなんだろうか……」

ぽつりと、いつもの考え事を口に出す私の癖がその時にも発動する。
まぁ大概は無視されるか奇異な目で見られるのだけれど、その時は違った。

「んふ、それはですねぇ。1905年5月9日に、アメリカのアンナ・ジャービスという女の人の母親が亡くなったんです。彼女は亡くなった母親をしのぶために、教会にたくさんの白いカーネーションを持ってきました。それが母の日の始まりだとされているんですよ」

すぐ隣で同じように花を見ていた綺麗な顔の男の子が説明してくれたのである。
驚いていると、彼はくるくると癖っ毛の髪をいじりながら私を見つめてきた。

「キリスト教では、カーネーションは母親が落とした涙のあとに生えた花だといわれ、母親の愛情を表すものだと考えられています。
んふふっ、このジャービスさんにならって、母親を亡くした子は白いカーネーションを、母親のいる子は赤いカーネーションを胸に飾るようようになっていったようですねぇ。
そして後の1914年、その時のアメリカ大統領だったウィルソンが、5月の第2日曜日を母の日と制定したんです。
んふっ、この習慣が日本にも伝わってきて、現在ではカーネーションを胸に飾るという習慣が、いつしか母親にプレゼントするという習慣に変わったのでしょうね」

「お、あ、は、はぁ……ご、ご丁寧にありがとうございます」

まさかそんなに長々と語っていただけるとは。
あと、合間に入る「んふっ」て笑い方が独特すぎて癖になった。
どうしよう。もう一回笑われたら真似してしまいそうだ。

「いえいえ、気にしないでください。僕は疑問に思ったことは調べてしまわないと気が済まないんです」

そしてすべて描いたシナリオ通りに動かすのが好きなんですよ。と続けられて反応に困った。
だって、その時の彼はとても悪そうな顔をしていたからだ。
ここまで黒さが表情に滲み出る人は初めて見た。

とりあえず、カーネーションの説明をしてくれたのはとても有り難かったが、とてもじゃないが頭に入らない。そして、この美少年とはあまり関わらない方がいいと第六感が訴えてきている。
あまりあてになったことはないが、ここは大人しく従った方がいいだろう。

私はぺこりと一礼して、白いカーネーションの花束を一束掴んで店員さんに声をかけようとしたのだった。

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