《善哉:パンダウザイっすわ》
《eleven:パンダ、来てくれたんだな》
《Eve:……相変わらずアホだよね》
いつものチャットルームに全員が揃った。
詩織はきっと俺が送ったメールを見て、すぐにパソコンを起動させてくれたのだろう。
ついさっきまで、Eveの《パンダがわざわざ俺に会いに学校まで来たんだけど》発言に動揺していた心が落ち着きを取り戻していく。
財前の発言の答えから、どうやらEveは詩織の連絡先も知らないみたいだ。……否、俺は一体何に焦っているんだろう。
正直、自分でも持て余している感情にまたそわそわし始めた。
マウスを握る手に力が入り、無意味にカチカチとクリックを繰り返す。
《パンダ:elevenさんの優しさが沁みる。……ところで、私召喚は、私がEveさんに会いにいったことについての話だろうか》
《善哉:それしかないやろ。どういうことなん?なんでEveの学校がわかったんや》
《Eve:⊃リズムの人》
《パンダ:そう、リズムの人だよ!》
《善哉:なんやろムカつくわ》
《eleven:ま、まぁ、善哉も落ち着け。……偶然が重なったってだけだろ?》
《パンダ:うん!すごいミラクル!さすが私っ》
そう発言した詩織に暫く誰も何も言えなかった。
なんというか、詩織は自分自身の境遇をあまり気にしていないんだろうか。否、違うか。あの雷の件もあったし……。
奇跡の少女という、ある意味で心を切り裂くような……他人が好き勝手につけたものを、よくそうプラスに取れるよなと苦笑した。
らしいといえば、確かにマイペースな彼女らしさではある。
《eleven:とりあえず、俺はリアルでEveに会うのを楽しみにしてるよ》
《善哉:……俺は会わんでも会うても、どうでもえぇけど。悪いけどテニス弱いやつには興味ないんすわ》
《Eve:君ら判断し辛いんだよね……めんどくさいなぁ。elevenのはお人好しにも宣戦布告にも聞こえるし……善哉は憶測で決めつけてるし……ていうか、斜に構えているのがウザイよなぁ……一回年上に怒られたらいいのに……ぬくぬく優しい先輩に囲まれてるやつなんだろうな。あーぁ、いいよなぁ……許されるって》
《パンダ:Eveさん文字打つの早っ》
どうでもいいところをつっこんだ詩織に呆れた。というか、なんでこんなにチャットルームの雰囲気が険悪になってるんだ。
実際に財前とEveが対峙したら大変そうだなと思う。否現実のEveを知りはしないけど、パンダの反応からどうもチャットのイメージそのままのような気がした。
「……そう言えば」
ふと、合宿から戻る時にバスから身を乗り出した千石さんが詩織にデートしようと口にしていたのを思い出した。
詩織は気が向いたらとか言っていたけど、笑顔を浮かべていたし、実際のところがよくわからない。
どうなんだろう。
もうデートする日取りとか決まったんだろうか。
再び妙にモヤモヤし始めた胸の内に眉根を寄せる。「変な顔」とリビングからトイレに向かおうとしていた姉に呟かれた。……放っておけ。
《……千石さんと出かける約束とかしたのか?》
チャットしながら、また携帯電話でも詩織にメールしてしまう。
《あー……忘れてたよ。はっ!もしかして千石さんまで怒ってるの?》
《否、怒ってない。俺が気になっただけ》
までってなんだ。
千石さん以外に誰かを怒らせたんだろうか。
忘れていたという詩織に少しほっとしながら、またパソコンの画面を見る。
《善哉:あかん。人の家に勝手に上がり込んできた先輩らがうざいんで、俺落ちるわ》
《Eve:あーぁ、やっぱり恵まれた環境か……いや、わかった。善哉ってよく目にするツンデレってやつじゃないのか》
《パンダ:確かに一理あるかも!》
《善哉:二人とも禿散らかればえぇと思う》
《Eve:それはない。俺、ヘアケアに二時間以上かけるんだよね》
《パンダ:Eveさんサラサラでしたものサラサラ》
《Eve:パンダは歯並び綺麗だったよな……うるさくて空気読めなさそうだけど、そこだけは評価してもいい》
《パンダ:誉められたのか貶されてるのかわからないっ》
《善哉:いちゃつくなや。死ね。eleven後は任せたわ》
《──善哉さんが退室しました》
《eleven:善哉……おつかれ》
どうやら俺の発言は間に合わなかったらしい。
はぁっと溜め息をついてから「俺は詩織の髪も柔らかそうで綺麗だと思ったし、性格も可愛いと思う」と文字として打ち込めない感想を呟いた。
そしたら丁度、トイレから戻ってきたらしい姉に聞こえていたらしく、ニヤァと性格の悪そうな笑みを浮かべられてから「お母さーんっ、十次が恋したらしいから明日赤飯炊いてぇ」と大声を出されたのだった。
……やっぱ、パソコンは自室に一台欲しい。
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