「ぶふぅーっ!」
和太鼓コンサートの公演場所であるビルは、榊グループの傘下である企業の持ちビルだった。
だから、夢野がどこにいるかはすぐにわかったわけである。
だが何故声をかけただけで烏龍茶を顔面に吹きかけられなきゃいけねぇんだ。アーン?
「ぎゃー!跡部様ごめんなさい!というか何故氷帝の皆様勢揃いなんですか!」
「詩織ちゃんが真田くんとデートだって聞いたからだCーっ!」
「ほう。弦一郎、やはりデートだったのか」
「むっ?!たたた、たわけ!」
夢野に飛びついたジローの言葉に、柳が口角を釣り上げ、真田がひどくうろたえて大声で怒鳴る。
俺の顎から滴り落ちる水滴をみて、樺地がタオルを寄越してきた。
「な、なんで柳さんまで?」
「クソクソ夢野、呑気に豚カツ食ってんじゃねぇよ!一口寄越してみそっ」
「っていうか、皆様他のお客様に迷惑ですよ!そして鳳くん、柳さんはこの店のオプションです。それから岳人先輩は後半ただのかつ上げです。あ、なんか私うまいこと言った気がする……!」
「……否、今のうまいか?お前オッサンみたいだな」と呆れた宍戸に驚愕の表情を見せた夢野を見ながら、ふっと笑ってやった。
それから腕を肩上まで上げ、ぱちんっと指を鳴らす。
「こ、これは跡部坊ちゃま!」
「この一角を少しの間借りるぜ」
そう言えば、店の奥から出てきた店長らしき男は「もちろんどうぞ!」と頭を下げてまた戻っていったのだった。
背中に刺さる日吉の、この人頭大丈夫か?という視線は無視して、呆れながらも俺に手を打った忍足に視線を向ける。
「さすが跡部やわ。ほんま規格外やで、自分の存在」
「アーン?褒められたと思っておいてやるよ」
ふんっと鼻で笑えば、肩をすくめてからヤツは夢野が座っていたテーブルの隣のテーブルの席に腰をかけた。
「すまんなぁ。デートの邪魔して」
「だからデートじゃないですってば。……滝先輩も忍足先輩と同じようにニヤニヤして私を見ないでください、もうっ」
一気に味噌汁を飲み干してから、夢野はまとわりついているジローの肩をぽんぽんっと叩く。
「……う〜。詩織ちゃん、怒ってるの〜?」
「……怒ってないですよ。ただいきなりだったんでびっくりしたんです」
悲しそうに瞳を潤ませたジローに夢野はため息をついてから笑っていた。
「……ふむ、夢野、愛されてるじゃないか。面白い」
クツリ、とまた愉快そうに唇で弧を描いた柳を一瞥する。
無性にその綺麗な笑みが気に入らなかった。
「ふん、王者のその余裕の笑みを今年は崩してやるから、待ってろよ、アーン?」
「む……俺たちは負けん」
「弦一郎の言うとおり、その可能性は極めて低い。残念だな」
「……下剋上だ」
小さく俺の背後で呟いた日吉のセリフに、俺様だけでなく、仲間全員が頷いた気配がした。
20/79