内に響く音
──午後三時半からの開演ということもあり、まだ少し時間があった。

待ち合わせ場所に来た夢野は、息を整えた後、花屋で花を買いに行かせて欲しいと言い、会場があるビル内の一階に向かう。
このビル内には、様々な飲食店や高級ブランドの店が並んでいた。
もしこのような機会がなければ、俺はなかなか足を踏み入れない場所だろう。
同じ年代で似合いそうなのは、氷帝の跡部ぐらいである。


「……すみません、買いました!」

「……うむ」

暫くしてから、籠に入った小さな花束を抱えて走ってきた夢野に目を細めた。

「……そういえば、ご両親のご友人だったか」

「はい!小さい頃からお世話になったご夫婦が主催者さんなんです」

「そうか。演奏が楽しみだ」

「きっと気に入りますよ!」

ニコニコと語る夢野に、彼女の両親が亡くなっていることを一瞬忘れそうになる。

不思議な人物だ。
そばにいるだけで、ついこちらまで笑ってしまう。

「……わぁ、いい席を用意してもらえたみたいですっ」

少しばかり困ったように笑いながら、薄暗い室内の段差を歩いていく夢野の後に続いた。
不意に前で体勢を崩した夢野の腕を掴めば、どうやら段差を踏み外したらしい。

転ばなくて良かったと告げれば「真田さんが男前過ぎて辛い」と嘆かれた。
……意味が分からん。

まぁそのたまに意味がわからない部分もあわせて、夢野のいいところなのだろう。





「…………」

約二時間。
身体の芯に響くような音は、ぞくぞくと何かを掻き立てられるようで。

主役の和太鼓だけでなく、竹笛や名前も知らなかった外国の楽器の音色にも心を動かされた。

そして誰よりも真剣に奏でられる音楽に向き合っている、隣の夢野の横顔にも息を飲む。

……俺たちが日々打ち込むテニスと同じように、この音楽の世界は彼女にとって特別なのだと感じた。

その目に見ている世界は違えど、きっと俺たちは似たもの同士なのだ。

だからこそ、あの短い合宿の間で、夢野に惹かれたのだろう。


ドォン……と低く唸るように響く太鼓の音が、ドクンっと大きく鳴り響いた心臓の音と重なったような気がした。

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