パンダ色の妄想は
「うわぁ、絶対Eveさんだ!私、あの、パンダですっ」

「……イブ?……発音変なんだけど……伊武だし。……っていうか、パンダって何だよ……バカみたいなパンダリュックを背負ってるのはみてわかるんだけど、パンダって…………パンダ?」

目の前でコクコクと首振り人形みたいに首を縦に振っている変な女をまじまじと凝視した。

俺が知っている人間でパンダなんて名乗る人間はただ一人だけしか考えつかない。だけど、その相手と現実で対面することがあるなんて脳が追いつかなかった。
否、俺も会えるものなら会いたいと思っていたけれど。

「……だけど、いきなり過ぎるんだけど……はぁ、でも俺の知ってるパンダならパンダらしいかな……あーぁ、なんだよ。この出会い方……」

「ごごごめんなさい!」

涙目で頭を下げたパンダにもう一度深いため息を吐いた。

本当は俺の心臓は五月蝿いくらいだけど、それを極力面には出さないようにする。
隣で神尾が「……深司、もしかして」と呟いたから、肯定するように一度だけ頷いてみた。

「……たぶんチャットでよく話してるヤツ」

「どどうもっ!昨日はすみません。リズムの人!」

「いや、そのリズムの人っての止めてくれ。俺は神尾アキラって名前があるんだから」

「わわ、神尾くんですか!私は夢野詩織といいますっ」

何故か俺より先に名乗りあった二人にいらっとする。
え、なに。なんで関係ないはずの神尾が先に挨拶するわけ。

「……あぁ、やっぱり。失礼かもしれないけど、夢野さんって、あの……」

「あ、そうだよ。鉄くんの思ってる通り、たぶんその夢野だよ」

「っ、奇跡の少女?!お前が?!」

開いた口が塞がらなかったのは、石田が鉄くんと呼ばれたことにもだけど、何度もチャットしていたのにパンダが奇跡の少女であることすら知らなかったことに対してである。
大袈裟に声を上げた神尾をちら見してから、苦笑しているパンダを見た。

「……ふぅん。そんなことはどうでもいいんだけど……それでパンダは俺に会いに来たわけ?……わざわざ?……だとしたら一応名乗るのが礼儀だよな。伊武深司」

「は、はいっ!い、伊武さん!」

俺が喋ったらやっとこっちを向いてパンダはそう言った。……っていうか、なんでさん付けなわけ。

「……あ、なんか……ハンドルネームのくせというか?」

「じゃあ深司でいいから」

「ふぉ!……し、深司くん?」

目を見開けて驚いたような顔をしたと思ったら、首を傾げてぽつりと俺の名前を呟く。
それだけで、妙に満たされたような気がしたのは、きっと目の前のパンダが俺の想像通りだったからだろう。

「……あー、俺だけ下の名前で呼ばれるってのは、不公平だよな。うん、絶対不公平だ。だから、パンダのことはこれから詩織って呼ぶから」

「……ど、どうぞ」

若干神尾と石田が呆れたような顔をしていたが、あえて無視した。

……とりあえずはこれで、善哉とelevenがどう反応を返してくるかが楽しみだ。

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