当たって砕けてみよう
──何故私は今こんなところにいるのだろうか。

見知らぬ正門前で行ったりきたり。絶対に挙動不審の怪しい人物である。通報されてしまっても文句はいえないかもしれない。

昨日、結局ストリートテニス場に行った時には、Eveさんどころか、リズムの人すらもう姿がなかった。
いたのは、玉林中の布川さんと泉さんという方々だけだった。声をかけてくれたお二人に尋ねたら、リズムの人は不動峰中だと教えてくれたのである。

そして一晩寝て考えた末に私は今不動峰中学の正門前にいるわけだが。
あぁあぁ、どうしていつもこう考えなしなんだろうか。そしてこのチキンハートめ!誰かに話し掛けるとかすればいいのにできない!
まぁもうぶつぶつ言ってる他校生に話しかけてくれる奇特な人など──

「……あの、何かうちの学校に用事か?」
「──いたぁっ!」
「は?!え?」

つい叫んでしまった。恥ずかしい。
申し訳ないのでぺこぺこと平謝りしたら、声をかけて下さった長身で白いバンダナをつけている男の子は「いいから」と笑ってくれた。
なんて良い人なんだろう!まるで修行僧のようだ。……と考えてから、私は思わず彼の黒いジャージに刺繍されている名前を見て固まる。

「……石田、さん?……お知り合いに石田銀さんとかいらっしゃいませんか?主に大阪に」

「え!兄貴を知ってるのか?」

「おほぅ、まさかのご兄弟……っ!ん?あれ、じゃあ二年生?」

私が呟いた独り言に答えるように、石田さんの弟さんは「俺は不動峰中の二年、石田鉄だ」と素敵な笑顔を見せてくれた上に手を差し伸べてくれる。え、握手?なんて爽やかな……!

「わわ私は夢野詩織と言います。氷帝学園二年、で。この間合宿所でご一緒した石田くんのお兄さん、石田銀さんの頭上にみかんゼリー飛ばして乗せて、淡々と説教していただいたお陰で一瞬悟りが開けたというか」

「……えっと、夢野さんって面白いな。はは。あぁ、ややっこしかったら、下の名前でもいいから」

「ててて、鉄くん!」

「あぁ」

またもや爽やかに白い歯を輝かせて笑ってくれた鉄くんに心臓がバクバク大変なことになった。
ただでさえ、Eveさんに会いに来たという緊張感でいっぱいいっぱいなのに。

「……も、もしこれで鉄くんがEveさんだったらどうしよう。否、チャットでのEveさんに爽やかさの欠片もなかったけど」

かなり失礼な発言をしているが、プチパニックでわけがわからなくなっているのである。許して欲しい。

「……イブ?……伊武、伊武深司のことか?」

「え」

「なら、アイツだぞ」

「えぇ?!」

名前の微妙なアクセントを訂正されたと思ったら、くるりと両肩に手をおかれ回された。

顔を上げれば、そこにはサラサッラの黒髪を風に揺らしている綺麗な男の子と、昨日のリズムの人が歩いてきているではないか。
しかもリズムの人は私に気付くと「あーっ!昨日の失礼な女!」と大声で私を指さしてきた。
くっ、昨日は私も失礼な上電波だったのは自覚しているが、人を指さしちゃいけません。

「否、それよりも……」

「深司!お前に用事らしいぞ」

鉄くん、ちょっと待って。まだご本人かもわからないのに……!

「……何?…………神尾が言ってた変な女?なんで俺に用事なんだよ……神尾に文句があるのはわかるけど……」

「うわぁ、絶対Eveさんだ!私、あの、パンダですっ」

ブツブツ何か呟いているのを聞いて、これがリズムの人たちがいうぼやきですね!と興奮してしまったのである。

だが、冷静になれば気づいたかもしれない。
鉄くんとリズムの人の私を見る目が、非常に残念なものを見るようなものになっていたことを。

……そう、パンダですっなんてまたもや電波だ。

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