Eveさんまでもう一歩
《パンダ:リズムリズムうるさいって想像がつかないー》

《Eve:あー、だから走っていたり試合中にスピードを上げたい時に『リズムにのるぜ♪』とか口に出しちゃうようなやつだよ……なんだろ、文字にしたら俺まで恥ずかしくなってきた》

《パンダ:おほう、想像以上の口癖だった。よしリズムの人って呼ぶよ!これから》

《Eve:……好きにしなよ。俺には関係ないし》



脳内でEveさんとのチャットのやり取りが一気に思い出されたのは、リアルであの台詞を耳にしたからだろう。
思わず「っ?!ぶふぅ」と吹き出したのと同時に喉の器官がおかしな事になった。

私を睨むリズムの人らしき男の子と、介抱しながら男の子に謝っているタマちゃんに声にならない謝罪を高速で述べた。


「……はぁはぁ、すみません。申し訳ないです、ただ、ただその……」

やっと顔を上げて喋れる。

「……あなた、リズムの人ですか?」

……私は真剣な顔でそう吐き出したが、よくよく考えれば意味不明である。もはや電波だ。私が彼ならこう思うだろう。
コイツ、頭おかしいんじゃねぇか?と。

たぶん彼もそう結論付けたのだろう。
表情筋がひくひくと痙攣していた。

だがしかし、絶対この人だ。Eveさんの話しによく出てくるリズムが口癖の人だ。

そこまで考えてから、私はカッと目を見開く。隣のタマちゃんがビクッと身体を跳ねさせていた。え、うわ、ごめんなさい、タマちゃん。

だが待って欲しい。私の頭の中では、Eveさんがもしやストリートテニスのコートにいるんじゃとプチパニック状態なのである。だから大目にみて下さい。

「……リズムに乗るぜ!」
「「あ」」

もう一度はっきりとあの台詞を口にして、片目を前髪が覆っている彼は駆けだしていった。なんという駿足だろうか。きっと彼ならばピンポンダッシュという悪戯が可能だろう。


「……詩織ちゃん〜、どう〜?落ち着いた〜?」

「あ、ごめんなさい!タマちゃんっ」

ゆったりとした口調で話しかけてきてくれたタマちゃんに頭を下げる。タマちゃんに迷惑をかけてしまった。
……あ、でも。

「……て、テニスコート見に行ってもいい?」

勇気を振り絞って、リズムの人が駆けていった方角を指差す。
サァサァと風が木の葉を揺らしていた。

「……ストリートテニスの?」

きょとんとしながら首を傾げたタマちゃんは、数秒何やら考え込んでから、ニンマリと笑うとこう言ってきたのである。

「もしかして、恋?!さっきの子に一目惚れ?!」

「え!」

その後高速で首を横に振ったが、乙女モード全開のタマちゃんは聞く耳を持ってくれなかった。

心の中で、私は本日二回目となるちーちゃんへのヘルプコールを念じるのだった。

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