クレープにつられた私
──私は只今タマちゃんと放課後デート中である。

ホームルームが終わり、屋上へヴァイオリンを弾きにいつものように向かおうとしていた私は、タマちゃんにガッチリと腕をホールドされた。
理由は「今日は駅前の雑貨屋さんが半額セールなの〜。ちーちゃんが部活動でダメになったから、詩織ちゃんが一緒にきて〜」である。

くそう。わざわざ屈んで上目遣いでお願いしてきたタマちゃんは策士である。女の子の上目遣い可愛い。くそう。

だけど、流夏ちゃんとしか出掛けたり遊んだことのない私は、異様に緊張していた。
そもそも私はパンダグッズ以外は興味ないし、流夏ちゃんはスタイリッシュなセンスの持ち主で、どちらかというと動きやすさに重点を置いた格好や機能性のある物が好きなのだ。つまり本日タマちゃんに連れて行かれた、ふわふわした可愛らしい女の子向け雑貨屋さんに入ったことがない。だから、終始挙動不審だった。


「……ふふ〜、今日は付き合ってくれたお詫びに〜、ここらでは有名なクレープ屋さんのクレープをおごってあげる〜」

「きゃー、タマお嬢様っ!!」

甘い食べ物に至っては大好物なので素直に喜んだ。たぶん、今の私にはぶんぶんと高速に振られているわんこな尻尾が生えているに違いない。

そのクレープ屋さんは、駅横の公園内にワゴン車で売りに来ているようだ。
だが、驚いた。
そのワゴン車に人集りが出来ている。
あまり人気の感じない公園だと思ったのに。


「ありがとうねー」

並んでようやく手に入れたのはイチゴバナナチョコである。
やはりこういうオーソドックスなものに、そこの味というものがでるのだ。けっして好きだから選んだわけじゃない。

「本当に苺好きねぇ〜」
「えへ」

笑ってごまかしてみたが、何故か周囲からの痛い視線は消えなかった。……すみません、独り言熱く語ってすみません。
隣でその視線を一緒に浴びてしまっているタマちゃんに心の底から申し訳なくなった。


「……あのベンチ、空いてるみたい〜」

それからタマちゃんが見つけてくれた空きベンチに腰をかける。
最初こそ「美味しいね!」とか発言していたが、次第に会話がなくなった。
食べてるから無言になるのは当たり前だが、なんだか辛くなってくるのは私に今まで友達が少なかったからだろうか。
どうしよう、これ。タマちゃん、のんびり屋さんでいつも聞き手(※跡部様を語り出すと止まらないけど)だから、話振るべきは私の役目だと思う。うわん、ちーちゃんヘルプミー!

──……

そんな時、不意に耳にボールが跳ねる音が届いた。
私は音を判断することに対して自信がある。
これは間違いなく──

「──テニス」

「え?あ〜……確か、この公園の隣にストリートテニスが出来るコートがあるみたい〜跡部様を見かけたって噂があるけど〜」

もし跡部様がいたら素敵よねぇ〜と頬を赤らめて笑うタマちゃんを可愛いなぁと思いながら、何故か無性にその場所が気になり始めた。

そんな時だ。ぶつぶつ愚痴をこぼしている同い年ぐらいの少年がクレープをいくつも詰めたビニール袋をぶら下げて、私たちの前でつま先をトントンし、黒いジャージの襟を整えたのは。
もう一方の肩にはテニスラケットを背負っている。

「……鬼太郎みたいな……髪型だぁ」

その少年の髪型が片方の目に悪いんじゃないかとか余計なことまで考えてしまう特徴的なものだった。

ごくんっと手にしていたクレープを完食した時、事件は起きたのである。

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