メール一通受信
──神奈川からやっと自宅に戻ったところで、私は疲れた身体を癒すようにベッドへとダイブした。
パンダ枕がびよよんと反動で跳ねる。くそう、いつみても可愛いなパンダ十一号は。

あれから駅で別れるまで忍足先輩とずっと一緒だったわけだが、つくづく先輩がモテる理由を目にしたというか体感してしまった。
苦手だったはずなのに、ずいぶんと会話が弾んでしまったのにも驚いている。
ちーちゃんが忍足先輩は天才だと言われていると教えてくれたが、なるほどと今なら首を縦に何度も振れるだろう。
彼はテニスだけでなく話術も天才的だった。さり気ない気遣いというか。どこかの自称天才的さんに見習わしたいぐらいである。

「……むぅ。今日は出前でも取っちゃおうかなぁ」

ベッドの上でパンダ十五号であるフワフワぬいぐるみを抱いてゴロゴロしていたら、異様に面倒くさくなってきた。
一年前ならゴロゴロしていても、お母さんがいつも用意してくれたのに。

「……っ」

ダメだ。
急に泣きたくなってきた。必死にこらえてジタバタ両足をばたつかせる。
すると、突然携帯電話が着信を知らせてきた。
ダイブした時にポケットから飛び出して、ベッドの上に転がっているそれを拾い上げる。

着信音で気づいていたが、知らないアドレスからのメール受信だった。

合宿の時に私がアドレスを渡して別れたのは二人。一人目は小石川さんである。でも彼は既に昨日メールをくれた。

つまりもう一人……

《Hai,are you fine?》

「……だ、誰?!」

大声で叫んでしまった。とりあえず、どなた様ですか?と英語で返しておいたが、たぶん英文は間違っていないはず。

《……まだまだだね》

《やっぱりリョーマくんじゃないか。私は元気ですたぶん》

《たぶんって何?》

《センチメンタルジャーニー》

《……意味わかんないんだけど。とりあえず、これが俺のアドレスだから。登録しておいてよね》

《ラジャーであります!》

リョーマくんのメールのおかげで、落ち込んでいた気分はマシになった。よしっと気合いをいれ、鼻歌混じりに出前のチラシを漁る。

……寿司もいいが、とんかつもいいなぁ。ううん、ピザでもいいけど食べきる気がしないので、寿司一人前にしよう!

恐る恐る電話注文してから、待っている間またゴロゴロしながら、携帯電話をいじっていた。

電話帳はいつの間にか、テニス部のイケメンたちで埋め尽くされている。本日新たに忍足先輩が加わったが、とりあえず、無事に帰り着きましたか?ぐらいメールした方がいいだろうか。
否でもなんか男の先輩に馴れ馴れしいかな……。
自分からメールするのがこんなに悩むものだとは。
さんざん悩んだ挙げ句、やっぱり送るのはやめることにした。

ちなみに、丸井さんとかアドレスを受け取っただけの人たちにも実はメールでアドレスを教えるとかできていなかったりする。
だってどんなテンションで送ればいいのだろうか。

……まぁもう他校の彼らとはそうそう会うこともないから、深く考えるのはやめにしよう。
この携帯イケメン図鑑をたまに眺めて、私の人生で一番イケメンたちに囲まれた時間だったとしみじみすることにするよ。さらば、優しき心の青少年たち。


そうこうしている内に寿司が配達されたようで、私は携帯電話をベッドに放り投げて、財布片手に玄関にかけたのだった。

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