一見穏やかな笑みを浮かべてはいるが、実質その瞳はまったく笑っていない。
薄ら寒さまで感じるほどの精市の様子に、俺は軽く息を吐き出した。
隣に立っている弦一郎はわけがわからないように瞬きをぱちぱちと繰り返してから「……む、夢野は合宿所に泊まっていたのだ」と話し始める。
精市の眉根がピクリと反応した。見る見るうちに表情が固まっていく。
その様子にまったく気づかない弦一郎もアレだが、俺の前だというのに感情をわかりやすく漏らしている精市にも驚いた。
つまり、今そこまで動揺しているということか。
……面白い。
まさか精市までが夢野に興味があったとは、予想の範囲を超えていた。
そして夢野は立海テニス部部長が誰かわかっていなかったはずなのに、何故精市の見舞いに来ているのか。
あの夢野の反応から、嘘はついているようには見えなかったし、本当に当時は興味がなかったのだろう。
だが、精市のことは知っていた。
精市も夢野のことを知っていて、少なからず面識があり、好意を抱いていたのだ。
「……そう、氷帝に」
一通り合宿の話を聞いた精市は、抑揚のない声で頷く。
「……負けられない、な。全国までには、なんとしても復帰したいよ」
続けて微笑んだ精市はきゅっと唇を噛みしめていた。
弦一郎は「王者立海は負けん!」と鼻息を荒くしていたが、たぶん精市の心理を万に一つも汲み取れていないのだろう。
つくづく鈍いヤツだ。
「……精市。付け足す情報があるんだが、弦一郎は今度夢野と和太鼓コンサートに二人っきりで出かけるらしいぞ」
「……へぇ」
「む?!な、なぜ知って……い、否、なぜこのタイミングでそれを口にするんだ!」
真っ赤になってうろたえ始めた弦一郎とは正反対に精市は冷たい目を向けていた。
……精市を煽るためと、弦一郎自身にムカついたからだという理由は、無表情の中に隠しておく。
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