名前を覚えました
──早朝から甘いものを焼いたら気分が悪くなった。

そう、昨日の優しい樺地くんへのお礼にマーマレードを使ったチョコレートの小さいパイを作ったのだ。

昼休みにでも渡しに行こう。

今日はお弁当を作ったから、それを教室で食べた後にでも。
否、昼休みすぐの方がいいかもしれない。

そんなことを考えながら、玄関口の下駄箱の前に立って靴を履き替える。

その時、ふと隣を見たら綺麗に視線が絡まった。

「…………」

「……お隣さんだ、おはよう」

「…………はぁ……日吉だ」

「え」

「日吉若」

お隣さんの名前は、日吉くんと言うらしい。

それだけいうと、さっと目線を外して、日吉くんは先に行ってしまう。

「うわ、まっ、日吉くん!おはよう!!」

「……あぁ、おはよう」

背中に大声で叫べば、日吉くんは迷惑そうに眉間に皺を寄せながら、小さいけれどちゃんと返してくれた。

なんだ、日吉くん意外と優しい。

「でも眉間の皺で美人が台無しだなぁ。せっかく綺麗な顔なのに……というか、教室反対──」
「──朝練に行くんだ。お前こそ、こんな朝早くから教室で何する気だ」

若干彼の顔が赤くなっている気がするのは何故だろうと思った。

「…………あ。時間間違えた」

「……馬鹿」

時計を見て漏らした私に日吉くんは深々とため息を吐き出す。

「……それから」

お前考えていること口に出すの辞めろ、と怒られた。

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