奴隷にしたるわ、ど阿呆が
──阿呆や。
ど阿呆やわ。あの女。

「……はぁ、詩織ちゃん、オサムちゃんらに頼まれてきっと断られへんかったんやわぁ」

隣で心配してため息をついた小春を一度視界に入れてから、もう一度あいつを睨む。
ちょうど悪目立ちしとるパンダの着ぐるみを脱ぎ終えとるとこやった。

あのアホ、何もオモロないねん。笑い取ろう思うんやったら、倒れるまで着ぐるみでおらんかい。中途半端なんじゃボケぇ。

「あら、でもあの格好は可愛えぇなぁ!」

「あかん!俺は直視できひん!めっちゃ恥ずかしい!」

赤面しながら顔を両手で覆ったヘタレの謙也は置いとくとして。
あの女、あれだけ小春に色目使うな言うたったのに何さらしとんねん。
大体小春の方が似合うっちゅーんじゃ!


「……さらに優勝者はそこの夢野が一つ頼み事を聞いてくれるらしい。と俺は聞いているが、お前それでいいのか?」

「え、あ、頼み事でいいのか!……こほん、なんだ賞品とかいうから何事かと……あ、はい!ヴァイオリンぐらいしか自信はありませんし、デザートをくれと言われても一つしか差し上げられませんが、私に出来ることなら、頑張ります!」

苛々しとったら、そんなやり取りが行われる。

ホンマ阿呆。
誰がお前に頼み事なんかするかい。大体テニス部関係ないやつは、始めっから引っ込んどれや。ウザイねん。

妙にそわそわし始めた謙也を横目に、俺は盛大に舌打ちしたった。

「ユウくん、優勝して詩織ちゃんのこと助けたろな!」

「……小春」

俺が優勝したら、小春に二度と近づいてくんな!と命令してやろうと思っとったが、あまりにも小春が心配している様子を見て、少しだけ考えを改める。
あかん、きっとそんなん命令したら小春が寂しがるわ。俺はきに食わんし存在が不愉快でしかないんやけど。小春が悲しむんはあかん。

「……」

せや、俺が優勝したら奴隷にしたるわ。
よし、それやったら小春に近づくのも制限できそうやしな。

……だから別に今から優勝目指すんはあのアホの為やない。

「小春の為やからな!調子に乗っ取ったら、どついたるからなボケェ!!」

「ひぃ、わかってますごめんなさいっ」

まるで俺に怒鳴られんのがわかっとったかのように、山吹のマネージャーのチビの後ろに隠れた夢野にさらに苛っとした。

……ほんま、ムカつく女や。

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