午後から榊おじさんがヴァイオリン指導をしてくれるらしいので、それまで苦手な曲を練習するつもりだったが、もうそんな気分ではない。
「セクハラされた、セクハラされた、セクハラされた……っ!」
後ろから抱き締められた上に胸まで掴まれた。なんだあの変態は。シリアスな話があるのかと思えば、セクハラ行為である。……まぁ私も真田さんとリョーマくんにセクハラ紛いのことを行ってしまったので、人のことはいえないが。否、謝ってきてくれたのならば、水に流そう。リョーマくんより大人だから。
だけど、それまでは私から近づきはしまい。絶対。
「……あ、Eveさんがいる!」
ブツブツ口に出しながらキーボードをカチカチしていたら、いつものチャットルームにEveさんを発見した。
もちろん、すぐさま入室する。
《──パンダさんが入室しました》
《Eve:あぁパンダ》
《パンダ:Eveさん!癒してください今すぐに!》
《Eve:……どうしたの。頭おかしくなったか?あぁ、前から変だったよな》
この文章にさえ表れる淡々とした冷たさがたまらない。そしてすぐに重大なことを思い出した。
《パンダ:そうそう。Eveさん、私、善哉さんとelevenさんに会ったよ。寧ろ後二泊!一緒のペンションに泊まるのだ》
それを送信したら、暫く画面が沈黙した。
《パンダ:……え?Eveさん?》
《Eve:すんまそん。今思わず友人(例のリズムリズム五月蝿いやつ)に電話かけてる。むしろ愚痴ってる。現在進行形。愚痴で電話かけてくるなって言われてるけど、仕方がないよね。パンダがわけわかんないこというから。え、何?なんで東京の俺より先に関西のはずの善哉なんかと会ってんの?ていうかさ、何ペンションって。パンダもさ、テニス部関係ないはずなのになんでだよ。あーあ、俺だけのけ者とかそういう流れなのか……やだな。パンダとは気が合うって思ってたんだけどな。裏切られた気分だよ》
心配したら、えらく長文が打ち込まれていた。うわぁ、どうしよう。Eveさんが壊れてしまわれた。
「……でもどうしよう」
《パンダ:拗ねてるEveさんテラカワユス》
まだ会ったこともないのに、想像して笑ってしまう。
《Eve:拗ねてなんかいないんだけど。バカじゃないの、パンダ》
《パンダ:イヒヒ》
《Eve:……拗ねてないって言ってるだろ。人の話聞きなよ。鬱陶しいな》
暫くそんなやり取りを繰り返して、すっかりセクハラされたことを忘れたのだった。
ちなみに、Eveさんは本日部活が休みで、ロック系の曲をパソコンで試聴していたところだったらしい。
……うん。もし会うことがあったら、現在進行形でEveさんに電話で愚痴られている友人さんであるリズムの人に全力で謝りたいと思います。
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