素直になれずにいる赤也の為なんだ。
そう、俺がそうしたいわけじゃねぇ。
「お前は俺たちの席で昼食を食べろよぃ」
「え、嫌です」
「……詩織、俺の隣空いてる」
「うん、そうするよ。十次くん」
午前の体力強化を中心とした練習が終わっての昼食の場で、わざわざ俺が優しく声をかけて誘ってやったのに、夢野は即答で断った挙げ句、山吹のヤツらが固まっている席に連れられていく。
「ちょ、待て待て待て!わかった、百歩譲って今回は諦めてやる!けどな、夕食ん時は──」
「──夕食ん時はウチのメンバーと食べることになっとんっすわ」
夢野の背中に声をかけたら、何故か横から人を見下したような冷めた声が聞こえた。視線を向ければ四天宝寺の二年だ。……なんなんだよぃ。
夢野も夢野で、一度俺に小さく会釈してから山吹の席につくし。
今ので謝ってるつもりなのか。本気で悪いと思ってないだろぃ!絶対!
「……お前が何必死になってんだ」
真田くんがいい加減に席につけと発狂しそうだったので、大人しく席に戻った俺にジャッカルが呆れ気味な顔を向けてきた。
「うるせー」
俺が一番わかってる。
なんでこんなに面白くないかも。
チラリと視界の端にある方向を睨んでいる赤也が入って、俺も同じように視線を動かせば、やっぱり楽しそうに食事を始めている夢野の姿があった。……イライラする。
「……ブンちゃん、たぶん俺が一緒にいる席には彼女は来んと思うナリ」
ヤケクソだと思ってケーキをガツガツ食っていたら、ぼそりと隣の仁王が呟いた。俺だけにしか聞こえないような小声で。
「……どーゆー意味だよぃ?」
「そのまんまじゃ。俺は氷帝の忍足を凌ぐ変態だと思われとるんよ」
「…………その通りじゃん」
犯人はお前かよぃ!ってツッコミを続けたら、仁王は微妙な顔で落ち込み始めた。意味わかんねー。でもとりあえず、仁王明日は席離れてくれよぃ!と言えば、何故かジャッカルに後頭部を叩かれる。ちょ、ジャッカルのくせになんなんだよぃ!
ブーブー文句を垂れたが、真田くんと比呂士くんの雰囲気が怖くなったので、それ以上は口にしなかった。
あーもう!くっそう!!大体夢野が俺の誘いを断るからだろぃ?!
つまり一番悪いのは夢野だ。
……もっといじめてやるからな!夢野詩織のバーカバーカ!
58/103