*知らぬが仏
『……見事に快晴ですねぇ』
数分前まで、暫く降り続いていた雨が上がった。
私は大きく伸びをして、雲の少ない久しぶりの青空を見上げる。
こんな日は、どこかに出掛けたくなる気分になってきて
『……そうだ、皆さん!どこかに――』
「夢子よ」
「俺らとそこらを散歩でもしねぇか」
勢いよく振り返れば、刑部さんと小十郎さんが立っておられた。
さらに珍しいことに、お二人から散歩のお誘いです!
「……なに、三成と暗がこんびにで売っていたあいすを食べたがっていてなぁ」
『え、官兵衛さんはまだしも三成さんもですか?!』
断る理由もなく、歩きながら話していた私は目を見開いた。
このお二人と出かけることも珍しいというのに、あの三成さんがアイスを所望されるだなんて……!
「やれ、ぬしは目敏いな……ヒヒッ、彼奴とて人の子。そういう気分もあろうよ」
クツクツと喉を鳴らしながら、意味深に笑われた刑部さんに首を傾げる。
なんだか様子が変な気もしますが……まぁ、深くは追求しないことにしました。
『……あ、そういえば小十郎さんは政宗さんをおいてこられて大丈夫だったんですか?』
「い、いや……だ、大丈夫だ。大体政宗様が……否なんでもない。……コンビニに寄るなら、政宗様に南蛮の酒でも買っていこう」
わざとらしく咳込まれながら、私から目線を外した小十郎さんはなんだか可笑しい。
ですが、特に何がというわけでもありませんでしたから、私はそれも深く追求しませんでした。
『……あ、お二人とも、見てください!虹ですよ!!』
私が指差した方角を見られたお二人は無言でしたが、目を細められたその横顔はとても優しげで。
『ふふ、そうだ。写真を撮りましょうっ』
携帯電話を取り出して、虹の輝きをそこに閉じ込める。
「……やれ、我も三成に見せるとしようか」
「俺も政宗様に……」
そんなお二人にくすりっと笑みが漏れてしまった。
お二人はそんな私に気付いて、小さく笑われる。
普段、難しそうな表情をされているお二人なだけに、なんだか貴重で。
虹と同じく、永遠に残しておきたいくらいでした……。
(やれ……、夢子の湯呑みを割ってしまった三成と暗に感謝するとしようか)
(政宗様らが洗濯物にあった夢子の下着で騒がなければ……このような穏やかな時間は送れなかったな)
(……ヒヒッ、役得ヤクトク)
(もう少し遠回りをしてから帰ることにしよう)
お二人と繋いだ手は、とても温かかったです。
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