*天を貫くほどの……
――その異変に気づいたのは、その日の昼。
ばたばたと走り回る菊一たちの足音を聞きながら、ソファに寝転がっていた。
何やら、今日は刑部に虐められんですんでるし、平和だなぁとかなんとか思いながら、ぼんやりテレビを見る。
『きゃっ!』
「むっ?!」
そんな折りだ。
夢子が小生目掛けて抱きついてきた。
否、うっかり足を引っ掛けて転んだのだろう。
そしてその転けた先に小生が寝転がっていただけだ。
「……大丈夫か?お前さんは」
そう言葉を掛けかけて、小生の手が夢子の胸を鷲掴みにしていることに気づく。
が、なんとなく、そこから手をどけれそうにない。というか、軽く指を動かして揉んじゃいそうなんじゃが。
げふんげふん。
『は、はい、ごめんなさい、官兵衛さん……っ』
涙目の夢子の可愛いこと!
で、赤い顔で小生に、座っていいですか?とはにかんだ夢子に即座に首を縦に振り、ソファの上で正座した。
『ふふ、官兵衛さん、面白い』
「否、これはなぁ」
緊張してんだよ。夢子が隣にいるから
なんて気障な台詞は口から出ない。
変わりに乾いた笑いでなんとか誤魔化した。
そしていつもなら、ここらへんでやってくるはずの乱入者が来ないことに首を傾げる。
『……あぁ、他の皆さんは菊ちゃんに連れて行かれましたよ?本館の工事のことで。後は久本さんのとこと……』
あぁ、それでか。
通りで、やけに静かだと思った。
小生がこれほどまでに夢子へ接近しているというのに……
「…………」
そこで深く考えた。
そう言えば、今朝起きた時はいつもみたいに刑部に踏まれたわけじゃなかったし……
朝餉は夢子の横の席だった。
ちなみに昼餉は夢子の真ん前に座れたし……
菊一や久本にこき使われることなく、平和にゴロゴロでき
夢子に抱きつかれて
二人っきりで仲良く並んでテレビを見ている。
…………幸運街道まっしぐらじゃないか?
不幸な事柄が一切起きていないのだ!
これはまさに小生の体質が改善されたとしか……っ!
「っ、夢子っ」
『はい?』
上擦った声は情けなかったが、なけなしの勇気でギュッと夢子の手を握ってみた。
いきなりこんなことをして、夢子に嫌われるかもしれない。
だが、夢子は小生の手にさらにもう一方の手を持ってきて絡める。
『……私も怖かったので。見終わるまで握っていてくださいねっ』
潤んだ瞳がそういったかと思えば、夢子はさらに身体も寄せてきた。
な、なんという密着度!なにこれ、最高!
そっと肩を抱き寄せて、甲高い悲鳴が響いたテレビの画面を見る。
そこには血まみれの女が映っていた。
この幸運が一生続きますように!と強く願ったが、夕餉前……刑部が小生のお椀を割った瞬間に、あ、終わった……と目を細める羽目になったのだった。
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