*君のハートに恋の矢を

――運命の女の子(だと俺が勝手に決めた)夢子ちゃんとお昼を一緒に食べられるようになった。

いやぁ、なんか色々邪魔ものだらけだけど、一応進展したって言っても過言じゃないよねー。

邪魔といえば、特に厄介なのは梵と猿飛くん。

ホント、現在進行形でもたれているフェンスが腐ってて、そのまま落下してくれたらいいのにー


「Hey、成実。何一人でブツブツ言ってんだ」

「え。口に出てた?!」

「あはー、ほんっと、いい度胸だよねー」

笑顔の猿飛くんには、どうやらはっきりセリフが聞こえていたみたいだ。

……地獄耳過ぎる。





そんなやり取りを繰り返し、昼休みは無情にも終わった。

なんていうか、夢子ちゃんとは進展なし。

というか、会話すら出来なかった。

ちょっとガードが堅すぎるんじゃないの。


そんなことをぼんやり考えながら、いつの間にか迎えていた放課後。


伊達成実、一大イベントがやってきました!

なんと、中庭の花壇前にて夢子ちゃんを発見!

罠かと思って、キョロキョロ辺りを見回すもどうやら彼女は一人のようで……

「夢子ちゃん」

絶好のチャンス!

意気揚々と夢子ちゃんの背中に声をかける。

『……っ、あ、あぁ、えっと……成実くん』

少し驚いたようで、小さく肩を震わせながらも、夢子ちゃんは俺に笑顔を浮かべてくれた。

……か

可愛いっ!

やっぱり可愛いんですけど!

ど、どうしようっ?!


「な、なにをしてたのかなー?」

阿呆みたいな笑みを浮かべてしまった。

……だ、ダメじゃん!俺!!

せっかくのチャンスに何を間抜けな状態になっているんだと、焦る。が、冷静になろうとすればするほど、思考はうまく纏まらない。


『……この花』

柔らかな笑みを浮かべたまま、夢子ちゃんは先ほど向けていた場所に視線を戻す。

花壇いっぱいに同じ種類の花が咲いていた。

一つ一つは清楚な印象がするのに、花壇にまとめてあるせいか、妙な力強さを感じる。

『ユリ科の花で、アガパンサスって言うらしいですよー。で、花言葉が……恋の訪れ、愛の便り、なんです。なんだか素敵だなって思って』

少し気恥ずかしそうに頬を染めた夢子ちゃんに、迂闊にも二度目の恋の矢が刺さった。

『……いつか私にも訪れてほしいなぁ』

ぽつりと漏らした彼女のセリフは、一音も漏らさず聞き取る。

そして、廊下からかすがちゃんに呼ばれて駆けていった夢子ちゃんの後ろ姿を眺めながら、俺は暫くその場から動けなかった。


いつか


いつか君のハートにも俺の恋の矢が届けばいいのに
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