ONE PIECE | ナノ


[

再び目を開けると、そこはお祭りに来るときに通った雑木林の中だった。
腕を動かそうとすると、ジャラッと重そうな音。能力も使えないようだし、これは海楼石の手錠だろうか。そのうえ、無性に頭が痛むことを考えると意識を失ったのは後ろから殴られたせいだと思う。海楼石の手錠まで揃えているところからすると、何か目的がある筈だとは思うが、海兵には見えなかったし、何なんだろう。
どうにか情報を得ようと周りを見渡しても、ただ林が広がるだけで何も無い。木に縄で体ごと括られているため、よく見えないが、私をここへ連れてきた男たちの姿は見当たらなかった。物怖じでもして逃げたのだろうか。そうだとしたら逆に困る。このままでは、誰かに見つけて貰えるまで待っているしかない。
「ロビンさん」
その声は、っと動かない首を無理矢理動かして声のした方を見る。
「……ジュリア」
そこに立っていたのは紛れもなく、私たちに気前よく浴衣を貸してくれたジュリアだった。何であなたが、なんて言うほどでもない。こんな裏切りは、いつもあった。こんなことに慣れてしまっている自分もどうかと思うし、慣れているのにみすみす捕まってしまっていることに呆れる。
「あはは、驚きもしませんか。まぁ、別に良いですけど」
人格が変わったかのようにケラケラと笑うジュリア。あんなにも控えめで可愛いげのある子だと思っていたのに。私の目は節穴どころの話じゃないらしい。
「何が目的?」
「うっわぁ、淡白ですねぇ。つれない人だなぁ。『あの人混みで何で私の場所がわかったか』とか、『他の仲間たちの場所』とか。聞かなくてもいいんです?」
もちろん、それには興味があった。けれど、わざわざ聞くことでもない。何より目的を聞いてこれからの策を練らなければならないのだから。
「聞いたら教えてくれるの?」
「それくらい教えてあげますってぇ。アタシ、別に心小さくないんで!」
「あらそう。」
ただの時間稼ぎ。ペラペラと喋るジュリアを見ているとそうにしか見えなかった。
「まず最初。あなたの場所なんて分かりませんでしたよ」
「え?」
どういうことだ。意味がわからない。ならなぜ、私をここに連れてくることができた?
「えへへ、分かりませんか。ビブルカードですよ。ビブルカード。これくらい知ってますよね?」
「ええ。それがなんだと、……あ」
「気付いちゃいましたぁ?私が貸した着物。あれ全部にビブルカードが縫い付けてあるんですよ。誰にどの着物を貸したかなんて把握できてないので、た・ま・た・ま!あなたを連れてくることができたんです。……余談になりますが、私たち賞金稼ぎなので、海賊らしい方を見かけたら取り合えず貸してますよ、着物」
最初っからジュリアは分かっていたのだ。私たちが麦わらの一味だということ。
優しさなんかじゃなかった。ただの賞金目当て。
襲われたのも演技だったんだろう。ジュリアの仲間は何人かいるようだったし。
「あ、他の仲間達ですか?順調に探している筈です。お祭りに参加しているのなら着物は脱げませんし。あぁ、でも何人かは追えてないって言ってたかなぁ?祭りから抜けた人とスピードがやけに速くて追い付けない人と。麦わらの一味って手が掛かって面倒ですね。それだけの賞金ではありますけど」
賞金稼ぎなんかこれまで見てきた。けれどここまで狡猾な賞金稼ぎには会ったことがない。いやそんなの言い訳だ。ルフィと祭りに参加できることに少なからず浮かれていたせいだ。
ただ、大物を相手にするのは初めてなのだろうか。微かだが、ジュリアの足が震えていた。
何に怯えているの?この場所が他のみんなにバレること?それとも私が怖い?いや、多額の賞金首を前にして怖じ気づいた?
ぼーっと考えているのを見兼ねてジュリアが声を掛けてくる。
「ロビンさん。何で逃げようとしないんです?このままじゃ、あなたは海軍に引き渡され、そのまま処刑か……はたまた一生牢に閉じ込められたままになりますよ」
「ええ。よく分かってるわよ。けれど、私はここから動くことも叶わない。錠さえ解ければ話は別だけれど」
ジュリアは面白そうに海楼石で出来た錠を見る。へえ、と息を吐き、私の前にしゃがむ。
「こんな錠だけであなたのような人が捕まえられるなんてね。他の仲間達もそうなんですか?」
「ええ、そうね」
この子、何も知らない。仮定が確実に事実に変わった。
だってジュリア、海楼石の錠さえも分からないみたいだった。『麦わらの一味』も名前だけしか知らない。いや、新聞で見た程度なのだろう。だからきっと誤解をしてる。一味全員が能力者なわけないのに。それくらい少し調べさえすれば分かることなのに。
──もし、この子が利用されているだけだとしたら?
いや。何を甘いことを考えているのか。仮にも賞金稼ぎなのだ。素人なわけがない。
「ジュリア、今までに稼いだ額はいくらぐらいになるのかしら?私たちを狙うぐらいだものね、相当な賞金首を狩ってきたのではないの?」
探りを入れるようにジュリアの目を見る。僅かながらにジュリアの目に動揺が走った。
「ロビンさん、そんなこと聞いて何になるんです?もっと有益な情報聞き出せばいいのに」
「あら、良いのよ?話したくないことなら話さなくたって」
逃げようとするジュリアに追い討ちをかける。
「麦わらの一味はあなたが思ってるような、やわな海賊じゃないわ。必ずルフィは助けに来る。そのときあなたがどんな目に遭うか……見物ね」
にやり、と笑ってみせるとジュリアは強がっているのか、
「ま、まず!彼等がここを探し出せるとは思いませんね……!それに私の仲間だって伊達に賞金稼ぎやってませんからっ」
「あら、そう」
素っ気なく返答すると、尚更煽られたように受け取ったのかジュリアは感情を剥き出しにして声を張り上げた。
「いつまでそんな余裕装ってられますかね!!もうすぐ仲間が返ってきます……。そしたら、そしたらッ!!あなたは即刻海軍に引き渡され!その首は体からおさらばですよ!あっはははははははははは!!!」
壊れたように笑い出すジュリアに正直苦笑いしか返すことができない。情緒不安定にも程がある。不安に一層拍車をかけた気がするが、ジュリアに正気を保たせているよりは遥かに良いだろう。いざと言うときの状況判断の良さが違う。
私ができるのはここまで。ルフィ、お願い助けに来て。

[+bookmark | <<>>back to top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -