あの時私は、沖田にキスされるんじゃないかという、ヒドい勘違いをしてしまった。その上、あんな告白紛いの……少女マンガみたいな夢見る乙女的なセリフを吐いてしまった自分を、殴りに行けるものなら今からでも行きたいと思うのだ。


『チャイナー。明日、誕生日だったよな?』

 11月2日──私の18歳の誕生日前日。全ては、沖田のその言葉から始まった。

「そうだけど。何アルか? プレゼントならいつでも受けつけてるから、遠慮なく貢ぐヨロシ」

 誰がやるか、みたいな返事が来ると思って軽く返したのだが。

「いや、プレゼントって訳じゃねェんだけど……遊園地のリニューアルオープン記念のタダ券貰ったんでさァ。誕生日祝い代わりにでも、行くか?」
「遊園地!? 私、日本の遊園地はまだ行ったことないアル! ホントにタダで行けるのかヨ? 言っとくけど、後で払うとかナシだからナ」

 ジェットコースターに観覧車……頭の中には、幼い頃に兄と連れて行ってもらった遊園地の記憶が蘇る。

「あのなァ。タダ券だって言ってんだろ? さすがに金は取らねーっての」
「それなら問題ないネ。んじゃ、明日行くアルー! 何時集合アルか? あ、他に誰誘ったのヨ?」
「タダ券はペアで1枚。だから、行くのは俺とお前の2人なんだけど」

 2人きりで、遊園地? ──うわ、何か、デートみたいじゃないか。学校帰りにゲーセンとかカラオケに行ったり、食べ歩きしたり。2人で出掛けることが、なかった訳ではないのだけれど。
 誕生日に、いかにもデートみたいな遊園地に2人で行くことがポイントなのだ。当然、浮き立つ心はなかなか抑えることが出来ず、いつも以上にヘラヘラ笑顔になってしまう。

「そんなに嬉しいかねェ、遊園地なんざ」
「うんっ」

 沖田は意味を取り違えてくれているようだが、そこは敢えて訂正しないでおこうと思う。


 遊園地は、想像以上に楽しくて。デート気分よりも、本気で遊びを満喫している自分がそこにいた。

「沖田ー! 次はどこ行くアルか?」
「待てや、コラ。てめーの体力はどうなってんでィ。ちったァ休ませろ!」
「プップー、だらしないアルナ。男のクセに情けないヤツ〜」

 絶叫マシン系を立て続けに3つ、という時点で沖田が大分参ってたっぽいのには気づいていた。それでも上がりまくるテンションのままに、アトラクション制覇を狙いつつ走ってしまったのだ。

「あ、じゃあ──あれ、乗るアルか?」

 休むついでに、というなら。指差した先には、遊園地の定番でもある観覧車が。

「疲れたんなら、ちょうどいいし。オマエ、高所恐怖症とかじゃなかったよナ?」
「……大丈夫、だけど。チャイナはいいのかよ?」
「へっ、何で? 私は高い所から景色眺めるのは最高に気分いいアル! いい感じに夕焼けも見れそうだし」
「あー、確かに。愚民共を高い所から見下ろすってのも気分いいしなァ」
「こんのドS! 景色ぐらいまともに楽しむヨロシ」

 ボスンと一発、脇腹に叩き込んでやるも。何だか沖田はボーッとしていて、痛がる風でもなく(確かに力は入れなかったけど)随分張り合いがない。
 そのまま、あまり会話もない状態で観覧車に乗り込んでしまって、ひとまず景色を堪能していると沖田がジッとこちらを見ているのに気づいた。

「……な、にアルか?」
「チャイナ、今、何考えてる?」
「えっ、何、って、」

 向かい側に座っていた沖田が、立ち上がって私のいる方に中腰のまま歩いてくる。視線はずっと絡み合ったままで、何だかさっきから熱を持っていて──。

「観覧車って、キスするための乗り物らしいぜ。お前、知ってたのかよ?」
「沖田……?」

 キスするための、って。えっ、だって、それを知ってて乗ったのは沖田の方じゃないか。じゃあ、沖田は、そのつもりで……?

「チャイナ──」
「っっ!!」

 至近距離に迫ってきた沖田の端正な顔に驚いて、思わず目をギュッと閉じてしまう。コレ、もしかしなくてもキスされる!? 私、何で目なんか閉じてるんだ。キスして、って言ってるみたいじゃないの。

「あ、あのっ。沖田!?」
「……何?」
「わ、私っ。前から沖田とはただの友達なんかじゃなくって、特別な関係になれたらな、って思ってて!」
「……は?」
「だからっ。今日は誕生日にデートみたいで嬉しくて!」

 ガチャン、と大きな音が鳴る。ハッとして前方を見れば、いつの間に辿り着いたのか、観覧車が地上に降り着いたようで。係員のお兄さんが扉を開けて、私たちが降りるのを待っていた。

「あ、下まで来てたんか。結構あっという間だったなァ」

 それまで漂っていた雰囲気は何だったのか。沖田は何事もなかったかのように、先に観覧車を降りていった。我に返った私の恥ずかしさときたら、もうハンパなくて。

「あのさ。チャイナ、さっき言いかけたのって……」
「えっ!? やっ、もういいアル! 何か、雰囲気に流されちゃっただけネ」
「雰囲気にねェ……」

 ダメだ、さっきの私は、私であって私じゃなかったのだ。冷静になってみれば、今同じようなことなんて言えそうにないもの。

「ま、チャイナがそう言うんなら別にいいんだけど」

 途中までの私の告白紛いの発言を、こいつは確かに聞いていたはずなのだ。超至近距離で。
 それでも何の反応もないってことは、流されてしまったというか。そもそもなかったことにされたというか。


 ゴメンナサイ、されたよりも、ある意味哀しい結果のように思えて。それからの数日は、あまり沖田と目を合わせることもなく、会話もあまりしなくなって。
 バイトのおかげで前みたいに話せていることは、正直嬉しくもあるのだが。──ちょっと複雑な乙女心だったりするのだ。


I wish you a merry X'mas!!
☆★第4話☆★




以上、11/3の出来事でしたー。
何つーか…どっちもどっち?いや、でも言葉より先にチューしようとしてた(しかも自覚してないし)総悟はやっぱり最低だと思うんだ!(*´д`*)

'11/12/20 up * '12/01/21 reprint

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