気づけば、街はクリスマス一色。あちらこちらが緑と赤で彩られていて、イルミネーションはキラキラ輝いている。
バイト先のお弁当屋さんも、例にもれずクリスマスの装飾で雰囲気がガラリと変わってしまった。
「何か、最近ごっさ忙しいアル。……店長が、クリスマス近いとこの店も混んでくるって言ってたけど、正直信じてなかったネ。だけど、これだけ忙しくなってるってことはホントだったアルナ」
「お前の楽しみだった残り物も全然なくなって、残念だったなァ?」
「うぅっ……辛うじてご飯くらいはっ」
「あ、それならさっきの客で売り切れたぜィ」
「うがぁっ!!」
店長にとっては嬉しい展開なのだろうが、私にとっては何のメリットもない。忙しい上に残り物も貰えずにひもじい思いをするなんて。
「ほれ、もう一働きしねーとな。今日も遅くなっから、キリキリ働け」
「うぅっ……お腹空いて力が出ないアリュ〜」
走れば5分を切る、帰り道を。最近は沖田と2人で歩いている。最初はあんなに抵抗したのに、帰り慣れてしまえば何をあんなに嫌がったのか分からなくなってしまった。……そもそも、片想いの相手に送ってもらえるとか。普通ならオイシイ展開ではないだろうか。
「明日はクリスマスイブ、アルナ〜」
「オードブル地獄らしいぜ? 夕方からは正社員も延長で残ってく程の忙しさだ。今より忙しいって、一体どんだけ儲ける気だよ」
世間はクリスマスムード一色でも、勤労学生の私たちには色気のある会話もない。まあ、そうでなければこうして沖田と歩くこともなかっただろうけど。
「なァ、チャイナ」
「ん〜? 何アルか?」
「明日、さ」
沖田の足が止まり、ジッとこちらに視線が向けられる。
「あー、ケーキ。うん、ケーキ、な。頼んどいたから、期待してろよ」
「あっ! そうだった。ケーキは沖田に頼んでたアルナ! 結局種類選ばせてくんなかったし、どんなのにしたアルか?」
「それは明日のお楽しみってヤツでさァ」
頭の中は、デコレーションされた様々なケーキでいっぱいになる。だから、沖田が複雑そうな表情で私を見ていたことなど気づくはずもなく。
「──やっぱ、色気より食い気かよ」
「んなーっ!! うるさいアル! どうせ私は食べ物さえ与えとけば大人しいとか言われてるネ!」
「俺はそこまで言ってねェけど」
「むぅ。似たようなことはいっつも言われてる気がするけどナ」
軽く睨みつけてやれば、沖田はいつもの無表情から、何だか真剣な目つきになっていて。ただでさえ整ったその顔が、私の乙女心を刺激して胸を高鳴らせた。
「沖田──?」
この顔を、私はいつか見た気がする。そんなに前じゃなく、遠すぎない過去に……ああ、あの観覧車の中で。
「明日まで、我慢するつもりだったんだけどなァ、本当は」
「……えっ?」
「ずっと、引っかかってた。あの遊園地で、お前に言われたこと」
「っ!?」
ちょっと、待って。沖田は何を言い出す気なんだ? 思いもしなかった展開に、呆然と、頭がフリーズ状態になってしまった私の前で。──あの観覧車での行動が再現されるかのように、沖田が段々と近づいて来るのを、他人事のように黙って見つめるしか出来ずにいた。
そして、グイッと、腕を引き寄せられたかと思うと。
力強い腕の中に、沖田より一回り小さい私はスッポリと収まっていた。──つまりは、抱きしめられてしまったのだった。
I wish you a merry X'mas!!
☆★第5話☆★
☆★第5話☆★