*キミにkissを*
──ねぇ、何で、私に触れないの?
私には、つき合って4ヶ月になる彼氏がいる。名前を沖田総悟というその男は、武装警察真選組の一番隊隊長という立派な肩書きを持ち。見た目の良さから、性格や性癖はさて置いて世の女共からモテまくっている──私という彼女が出来ても変わらずに。
それに関して、特に不満やら何やらがある訳ではない。当の総悟本人が私にベタ惚れだというのも一因ではあるが、モテるからといってその女共が私に嫌がらせをするでもないのだから、別に気にならないと言った方がいいのだろうか。
そもそも4ヶ月前に私と総悟がつき合い始めた時、公衆の面前で公開告白をやらかし(しかも私からチューしてやった!)テレビのカメラにまで撮られてしまったのだ。総悟だけでなく、あれ以来、私までもがマスコミのターゲットとなってしまったのは言うまでもない。
「チャイナー。お前、明日誕生日なんだってな?」
公園で顔を合わせるなり、突然切り出された。
「う、うん。誰から訊いたアルか?」
「んー。姐さん経由で近藤さんから。……ってか、言えよ。訊かなかった俺も悪かったが、スルーしちまうとこだったじゃねェか」
軽くデコピンされたけれど、力は全然入ってなくて。仕方ねーな、なんて笑みまで浮かべてて。
「総悟は私に甘いアルナ」
「そうかー? ま、惚れた弱みってヤツじゃね?」
愛されてる、その自信はある。つき合い始める前にもそうだったけど、総悟は私にスキスキオーラを出しまくりなのだ。自惚れなんかではなく、自信を持って言える。
「誕生日、何か欲しいモンある?」
「欲しいもの……?」
そう訊かれ、少しだけ頭に浮かんだことといえば。
"キスして欲しい"
うわっ。私ったら、欲求不満みたいじゃないか!
「そそそそそんなん、オマエが当ててみればいいネ! 大体、プレゼントはサプライズが基本アル」
「サプライズったってなァ。明日までに買うにしちゃあ、時間が足りねェから訊いてんだ」
「──別に、買わなくても、いいネ」
「あ? 何か言ったか?」
「な、何でもないアル! せいぜい悩むがいいネ! 取り敢えず、酢昆布は忘れないで献上するヨロシ」
「誕生日じゃなくても、毎度買ってやってるっての。もうこの際一年分とか買うかァ?」
何も買ってくれなくていい、酢昆布だっていらないから、キスが欲しいの──。
プレゼントじゃなくたって、キスなんていつもしてるだろうと言われるかもしれないが。つき合ってから4ヶ月にもなるというのに、総悟は手を繋いでもこなければ抱きしめることもなく。キスなんて、私が勢いで告白の時にぶちかまして以来したこともない。つまり、総悟から私に触れてくることはなかったということ。
……総悟は、私とそういうことをしたいと思わないんだろうか? 女の私ですら欲求不満みたいにキスして欲しいと思っちゃうくらいなのに。
「私だって、総悟の誕生日に何も買えなかったんだから。別にモノが欲しくて総悟とつき合ってる訳じゃないアル」
「へー。随分オトナな発言じゃね? 無理しなくていーんだぜ、まだチャイナはガキなんだからなァ」
「なっ! 私はもう16ネ。ガキなんかじゃないアル!!」
「ハイハイ。ガキじゃねェって怒る時点でガキだっての」
「そっ……総悟のバカぁ!!」
怒りが沸点を越えて。気づけば、渾身の拳を総悟の腹に叩き込んでしまっていた。
「乙女心も分かんないクソドS野郎なんか、もう知らないアル! プレゼントだって、何持って来たって受け取んないんだからナ!」
言い捨てるように怒鳴りつけ、そのまま公園を後にした。
「乙女心だァ? んなこと言う前に男心も分かんねーのはそっちだっての」
残された総悟の呟きなど、走り去る私の耳に届く筈もなく。明日の私の誕生日を控え、ラブラブどころか険悪な雰囲気を自ら作り出してしまったことに、ほんの少しだけ後悔して──寝床(押入)に閉じこもったのだった。