*day_3_elegy*


月日は、移り変われども──


『ねぇ、そーちゃん。本当にいいの? 私、あなたに淋しい思いをさせてまで十四郎さんに着いていこうなんて……』
『いいんです、姉さん。せっかく想い合って一緒になったのに、夫婦が離れ離れになることなんてないんですから』
『総悟……お前』
『勘違いすんなよ。俺はあんたを認めた訳じゃねェ。姉さんが哀しむことはしたくないだけなんでさァ。──だから、姉さんのこと頼みます。姉さんを泣かせるようなことしたら、迷わず俺がぶった斬りに行きますから覚悟しといて下せェ』
『もうっ! そーちゃんったら』
『……泣かせたりなんか、しねぇ。ミツバのことは、俺が絶対守るって決めたんだ』
『十四郎さ……』
『その言葉、忘れないで下せェ』


「土方さんは、俺の父さんの弟子ってヤツで。ピアノやってる俺とは違って、バイオリンなんざ弾いてんでさァ。あっちもプロの演奏家やってて、拠点をヨーロッパに移さなきゃならねェってんで、姉さんと結婚した後にウィーンに行っちまったんでィ」
「総悟が許さなきゃ、お姉さん置いて独りで行くつもりだったアルナ」
「らしいなァ。そんなん誰が認めるかっての。姉さんが泣くの、目に見えてるっつーのに」

 総悟が苦い顔をしながら話してくれた、お姉さんのミツバさんと"マヨ"こと土方十四郎のこと。
 私が前世で聞いていたはずの話だと、2人は結ばれることなくミツバさんが病気で先に逝ってしまったようだ。今生でも再び巡り会えて、今度こそ一緒になれたというなら──きっと2人の間にある運命の絆というヤツはかなり深いんじゃないかと思う。私も……総悟とそんな間柄でありたいと願うのは贅沢なんだろうか?



 午前中は総悟の傍で当たり前のように時間を費やしてしまった。総悟は別に構わないと笑っていたが、そうそう私が張り付いている訳にもいかないだろう。
 午後からは仕事の打ち合わせに行くという総悟から離れ、ひとまず病院で眠る自分の身体の様子を見に行くことにした。
 さすがに銀ちゃんも仕事に戻ったらしく、病室には変わった様子もなく眠りこける私の身体だけがあった。

「……やっぱり、戻れないネ」

 機械に繋がれるでもなく、点滴ぐらいで昏々と眠り続けるだけ。私自身にだって、全く訳が分からない。そもそも、再びこの身体に戻って動けるようになる日が来るなんて──何の保証もないではないか。
 そんなことは、あまり考えないようにしていたのだ。総悟と過ごせる時間があまりにも幸せで。離れがたくて。このままの時間があとどれだけ続くかは分からないが、今出来ることを探していくしかないのではないかと考えた。
 近頃、何度となく身の危険を感じていた総悟を守ること──。そうしながら、今後の自分の向かう先を考えていくしかないのだろう。

 すーっ、と。病室を抜け出て。病棟側から、外来のある本館側へ自然に移動していく。
 その途中。連れ立って歩く、理事長と院長の姿を視界に捉えて立ち止まってしまう。

「あれ……?」

 理事長を、白衣を着た医師らしき男性に引き渡したようで、院長が深々と頭を下げている。
 そんなゴリの表情を見るのは、前世で真選組の為に動いてた時ぐらいだったか。大体は、姐御に対するストーカー行為が目立っていて……って! あぁ、そうか。姐御だって、その弟である新八も。それに何よりも、今はぐうたらなダメ教師でしかない銀ちゃんだって。前世から繋がれた縁があってこそ、今もこうして一緒にいられるのではないだろうか。
 蘇ってくる、万事屋としての前世の記憶。銀ちゃん……それに、新八も。私たちはあの頃、紛れもない家族だった。
 そういえば、姐御は今、ゴリにストーカーされたりしてないんだろうか? 姐御だって、一応試衛館の学生な訳だし。しかも、高等部の時は総悟と同級生だったらしいし。ゴリの視界に入ってれば、ターゲットにされていてもおかしくないはずなのだが。

 前世のこととか色々考えてるうちに、病院を後にするゴリ(もう院長、とか面倒だし)を自然に追う形になった。
 向かう先は、どうも近頃よく通っている方面のようで。見慣れた風景が通り過ぎていく。練習棟4F──第8練習室。その前を横切って、ゴリは隣の部屋のドアを開けて入っていった。

「理事長室……こんなとこにあったんだ」

 ゴリは院長だから自分の部屋ではないが、何か理事長の代わりに用事でもあるのだろう。そういえば、こんな広い学院だから、何処に何の部屋があるかなんてそもそも半分も知らないんだと気づいた。
 閉まってしまったドアをくぐり抜けて、失礼しまーす、とちょっと申し訳ない気持ちで室内にお邪魔してみる。
 理事長室の中は予想通りだだっ広かったが、部屋の隅の方に佇んでいるゴリをすぐに見つけることが出来た。

「総悟……」

 ゴリが見ていたのは、写真のようだった。盗み見るようで悪いとは思ったのだが、失礼して横から覗き込んでみる。

「あ、ちっちゃい総悟だ! あとは、ゴリとマヨと……これがミツバさんアルナ?」

 仲良く写った、写真の中の4人。仏頂面の総悟は、きっとマヨがいるから笑えなかったんだと予想がつく。まだこの頃は、前世の記憶はなかったんだろうか? 後で訊いてみるのもいいかもしれない。

「親父さん……俺ぁ、一体どうしたらいいんでしょうか?」

 隣の写真を見つめていたゴリがポツリと呟いた。……親父さん、って。総悟の伯父さんなんだっけ?
 ゴリが見ていた写真も、やっぱり4人のものだった。ただ、写っていたのはその親父さん、と理事長夫妻。それに、総悟のご両親らしき2人。少し色褪せた背景だったけれど、写真の中には文句なしの美男美女が笑顔で並んでいた。
 理事長じゃない方の女性が総悟そっくりであることから、すぐにこの女性が総悟のお母さんだと分かる。そういえば、理事長以外の3人は同じ事故で命を落としたんだっけ。総悟にしても辛いことだったろうけど、理事長も残されて辛い想いをしたんだろうと思う。
 その時、ドアをノックする音がした。ゴリはすぐに開いていることを告げ、間髪入れずに入室してきた人物──その予想外の人物に、私は驚きのあまり絶句してしまう。

「お待ちしていました、お妙さん……」
「神楽ちゃんのことで、って言うから仕方なく来ましたけど。それ以外のことか、または不埒なことをしでかすようでしたら遠慮なく血祭りにあげますよ?」

 どうしてゴリのところに姐御が。……前世の記憶がなければ、私には接点すら気づくこともなかったはずだ。

「ハッハッハ! さすがに不埒なことなんざ出来ませんって。それに、お妙さんも聞いていたんでしょう? 総悟が彼女を呼び出したらしいことは」
「それは、まあ。……でも、なぜそのことで近藤さんが? 失礼ですけど、あなたの日頃の振る舞いから考えたら、神楽ちゃんをダシにして私に近づいたと思いますよ?」

 日頃の振る舞い……ってことは、やっぱりストーカーやってたのかゴリのヤツ!

「そう思われても仕方ないとは思ってます。でも、今回のことは──俺の母に原因があるかもしれなくて」
「えっ!? 近藤さんのお母様って、理事長のことですよね?」
「はい。俺は養子ですから、正確には義母ですが」

 理事長が原因……? ちょっと待って。私が落ちた事故が、まさか理事長に落とされたとか言うんじゃ……。

「理事長が原因って、まさか神楽ちゃんを突き落としたんですか!?」
「まさか! そうではないんですっ。ただ……ああ、どう説明すればいいか分からないんですよ。俺も、駆けつけた時には倒れた義母さんを抱き起こすしか出来なくて」
「直接見た訳ではないんですね?」
「そうです。ですが、何かあったのだけは間違いない。それに、総悟が神楽さんのことを大事にしているようだと……実は、昨日銀八から聞かされまして。これをお妙さんに言うのは筋違いかもしれないんですが……ただの独り言だと思って聞いて欲しいんです」

 あまりに衝撃的な内容で、私の頭はなかなかパニックから脱することが出来なかった。まだ、ゴリは姐御に何かを告げようとしていたのだが──。




よし!近妙(ただしボコリ愛)きた!(笑)
麻岡は銀妙は苦手なんで、好きな方は期待しないでね。
あ。当然、次に続きますよ〜。

'11/08/04 written * '11/08/09 up



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