*day_3_accelerando*


加速する、恋心──



 理事長が精神を患っている──。姐御にそう切り出したゴリは、最近特に理事長の行動が自分の目の届かないところで思いもしない方向にいっていると嘆いた。
 重ねて、いつもおかしい訳ではなく、ふと気づくと視界から消えて子供みたいな悪戯をしてみたり。自分でしたことは忘れてしまう為、後からそれを追求したところで全く意味のない行為だってこと。

「しかも、悪戯の矛先は、決まっていつも総悟なんですよ」
「沖田さん、って……だって血の繋がった甥っ子なんですよね?」
「そうです。今のところは、悪戯も命を奪うような危ないものではないんですが……いや、でも昨日は階段から落ちるくらいだったから、そうも言ってられないかもしれなくて」

 昨日の事故──蝋が階段に塗られていたこと、ゴリは気づいていたのか。事前に気づいてた訳ではなさそうだから、総悟が落ちた時に感づいたか。それとも昨日帰宅した後に気づいたのか。……どっちにしても、私と同じように総悟を守りたい気持ちがゴリにあるということは分かった。

「階段から、って大丈夫だったんですか!?」
「はい。ちょうど下に俺がいたので、走り込んでキャッチしたんですよ。いやー間に合ってよかったです」
「キャッチって……あなたも怪我してしまうかもしれなかったじゃないですか!」
「あれ、心配してくれたんですか? 嬉しいなぁ」
「近藤さん! 何のん気なこと言ってるんですかっ。怒りますよ!?」

 もう怒ってるじゃないですか、だってあなたが馬鹿だから、と言い争う2人を見ながら。私は何気なく、さっきゴリが見ていた理事長たち4人の写真に目をやった。

「そういえば……総悟のお母さん、私と同じお団子頭、なんだ」

 何だか、総悟が私のコスプレしてるみたい。そんなアホなことを考える。理事長が私を見て、総悟のお母さんと間違えたりしたかも? でも間違えた結果何かがあったのか、と訊かれても何が何だか分からないし。それこそ、総悟のお母さんが生きていたら突き落としたかったと理事長が思ってるかもしれないとか──。

「何かしらの理由で総悟のお母さんを憎んでて、いつも似てる総悟が間違われて狙われてる、とか? 私も、髪型のせいで間違われて突き落とされた……?」

 だから、ないない! ゴリだって、突き落としたりはしないだろうって言ってたし。
 ぶんぶん頭を振って、余計な考えを排除していく。私が落ちたのは、多分事故だ。それを変に疑ったりするから話がややこしくなるんだ。ゴリが姐御に相談なんかするから、益々面倒な話になっている気がするのだが。



 姐御が部屋を出た後。私も取り敢えず、総悟以外の誰かに話を聴いてもらいたい衝動に駆られ。気づけば、またいつものサボり場所に籠もっていた神威のところに足が向いていた。

「だからって何でオレが、沖田の身の危険の心配なんかしなきゃなんないのさ」
「や、心配しろとは言ってないけど。ってか、誰にも言えないで悶々してんのがイヤだったネ! 神威なんかでも一応吐き出し口にはなれるからナ」
「何ソレ、褒めてないよね? 神楽のクセに生意気じゃん」

 常ならば、はり倒されているか顔面潰しの刑になっているか。満面の笑みで確実に怒っているであろうクソ兄貴。ああ、生身でなくてよかった。

「あいつが危なかろうが何だろうがオレはどうでもいいけど、まあそんな悪戯とかで死なれちゃうんじゃさすがに可哀想だもんネ。もうこの際だから、神楽が四六時中沖田に張り付いてるしかないんじゃないの? これってリアルに守護霊じゃん?」
「神威……オマエふざけてるアルナ?」
「え〜? オレはマジメに言ってるんだヨ、心外だなぁ」

 マジメに、ってどの口が言うか! キッと睨みつけてやるも、当然だが何の効果もなく。またもやヘラヘラと笑うだけだった。

「ってかさ、ぶっちゃけオマエ、理事長に突き落とされた可能性高いんじゃないの? 院長とか沖田本人だと、身内の情ってのが入るだろうから考えたくないだろうけど。第三者視点で冷静に客観的に言わせてもらえば、そうなるけど? オレだって一応、神楽がこうなっちゃって怒ってるんだヨ。本当にただの事故じゃなくて、理事長が犯人だとかいうんなら訴えることだって出来るんだけど?」
「なっ……」

 珍しく真面目な顔で正論を振りかざす兄貴の姿に、反論が出来ない。

「──確かに、伯母が神楽のことを突き落としたなんてことになれば、俺だって黙っちゃいませんがねィ」

 突然の声に振り返れば、ドアを開けた総悟が不機嫌そうな面持ちで立っていた。全く気配を感じさせなかったのだから、こちらの驚きはかなりのもので。さすがの神威も目を見開いている。

「総悟っ!? いつからそこにいたアルかっ!」
「あらら〜? 神楽、尾行されてたんだ? 生霊のクセにどんだけマヌケなのさ」

 深い溜め息をつき、腕組みをしている総悟は完全に無表情になった。

「一体どういうことなんでィ? 俺の話を始めたかと思えば、今度は身内の話まで出てきやがる。それを何で関係のねェ神威さんにしてる訳? 俺に直接言やァいい話じゃね?」
「うっ……だって。実の伯母さんに命狙われてるかも、なんて。よく空気読めって言われる私でも、本人になんて言える訳ないネ!!」
「あははっ。空気読めてない自覚はあったんだ? ちょっとは成長したじゃん」
「そういうオマエも空気読めヨ!」

 うがぁっ! と神威に噛みつけば。あからさまにムッとする総悟が視界に入る。

「へー。沖田クンて、オレとおんなじで考え読めないタイプだと思ってたけど。神楽のことになると分かりやすいんだね。ちょっと笑える〜」
「考え、読めたって言うんですかィ?」
「やだなぁ。そんな敵意剥き出しにして、気づかれないとでも思った?」
「なっ……」
「しょーがないなぁ。妬かなくてもいいモチ妬かれてもウザいだけだし、まあ暴露してあげよっか?」
「はァ?」
「オレさ、コイツの血の繋がった兄貴なんだよね。だからキミが勘違いしてるような関係はアリエナイって訳。言ってる意味分かる〜?」

 ちょっと待て。神威の発言に頭が着いていかず、更に総悟の態度も気になり。当事者であるはずの私もかなり置いてきぼりになってしまっていた。

「えっ、兄妹って……こと? あれ、でも神楽に兄貴なんていたっけ? でも、大分前(前世)に言ってた気もするけど」
「もしもーし、沖田クン? 勘違いはしないで欲しいけど、だからってすんなり神楽を渡す訳じゃあないからネ。そこは誤解ないように先にクギ刺させてもらうヨ」
「や、それはどうでもいいんですけどね。──噂、知ってて放置してんですかィ」
「あぁ。オレと神楽が出来てるってヤツ? あったりまえじゃん。おかげでウザい女どもが寄ってくんの、多少は減るし。あ、他言はしないでヨ? まだまだオレの平穏の為に役に立ってもらうんだからさぁ」

 呆気にとられ、2人のやり取りを見ていた私だったが。

「ねぇ、神楽ってば鈍いからまだ分かってないみたいだヨ? キミも苦労するよね〜お子ちゃま相手だとこの先大変なんじゃない?」
「──まあ、それは覚悟の上でさァ。そもそも、すんなり渡してもくんないんでしょう?」
「そうそう。ついでに言うと、過保護なオヤジと日本での保護者も結構攻略困難だと思うヨ。見苦しいくらい親バカだからさぁ」

 繰り広げられる会話をようやく整理し、追いついたかと思えば。2人はすっかり私そっちのけで、笑顔で火花散らしてる状態。

「あ、あの〜。総悟?」
「ん? どうした、神楽?」
「クソ兄貴と私の噂知ってて、妬いてたアルか?」
「何でィ。まだそこで躓いてたのかよ」

 ぶっ、と吹き出して珍しく楽しそうに笑う総悟に、ドキドキし始める。

「お前な〜。どんだけ鈍いんでィ。最初っから嫉妬なんかバリバリだっただろが」
「えっ。だって。私は総悟にずっと憧れてたけど、総悟が私のこと……す、好きだなんて思いもしなくてっ」
「なァ、神楽。その憧れってさ……恋愛対象にはなんねェの?」

 目の前が真っ白に、なった。あれ、私今、何を言われたの──?



超絶激鈍娘に苦戦するドS王子。やっぱり長くなったんで、次章に続きます〜!!
話がちっとも進まねー…

'11/08/14 written * '11/08/19 up



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