*キミに贈る──言葉*



『──以前は破壊活動で新聞やテレビでも悪目立ちしていたところがありましたが、最近では大人しくなった印象でしたよね。元々、ビジュアルだけでも女性からは絶大な人気を誇る、真選組一番隊隊長ですから』
『今回の、身分を超えた莉津姫様とのロマンスの噂。真偽の程はいかがなものでしょうかね?』
『サド王子なんて通称もあるようですが、ここ数日の莉津姫様から受ける信頼ぶりは、最早本物のプリンスのようだとの将軍家関係者からの証言もあるくらいですよ』
『いや〜気になりますよね。彼は下手な芸能人よりイケメンですから、ビジュアル的に見ると莉津姫様ともお似合いです。バツイチとはいえ、莉津姫様は初めて公に姿をお見せになってから、急激にファンを増やしてます。これは、今年一番……いえ、ここ数年でも例を見ないビッグカップルになるのではないかと──』


 ブチッ。テレビのコンセントを思い切り引っこ抜いてやった。
 紀州からやってきたお姫様──バツイチ、と言っても嫁いだ先の旦那様を病で亡くした薄幸の未亡人、しかも超美人として有名な莉津姫様。
 彼女が江戸を訪れて、サド──沖田が常に傍に寄り添うように付き従い。並んでいるだけでも絵になる2人が噂になるのに、そう時間はかからなかったようだ。私がたまたま見てしまった出会いの場面から、半日もしないうちに江戸中に広まったのだから。

「か、神楽ちゃん……。気にすることないよ。マスコミが騒いでるのなんて、どうせ見た目だけのことだよ!」
「そーアルナ。お似合いだもんナ」
「いやいや、そうじゃなくって!」
「分かってるアル。でも、」

 沖田のあんな姿を見てしまったのだ。あれだけあった自信なんて、もう粉々に砕け散ってしまった。どうして今まで、ずっと沖田が自分のことを好きでいてくれるなんて思っていられたんだろう。人の心なんて、簡単に変わってしまうものなのに。
 ──思い上がっていたのだ。私も沖田が好きなんだって、そんな簡単なことさえ伝える努力もしなかったくせに。それに、もしかしたら沖田が私のこと好きだと思ってたのは勘違いだったのかもしれない。ホントは、構うと反応する私を面白がってただけで……ああ、そう考えてたら辻褄が合ってる気になってきた。
 そうして、莉津姫に出会ったことで……沖田がホントの恋に墜ちたんだとしたら。

「──あのさぁ、神楽」

 それまで黙ってた銀ちゃんが気怠そうないつもの顔つきから突然真顔になって、じいっと私を見つめてきた。

「な、何アルか?」
「……お前、沖田くんの姉ちゃん知ってる?」
「はぁ? 聞いたことないけど、それがどうかしたアルか」
「んー、やっぱ神楽には言ってなかったか。まあいいや、それは置いといてさー」

 訳の分からないまま、銀ちゃんは話を続けてしまう。

「俺さぁ、テレビで莉津姫を初めて見た時にどっかで会ったことあるような気がしたんだけど、ぜんっぜん思い出せなかったんだわ。だけど、その後で沖田くんとツーショットで映ってんの見た瞬間思い出してさー」
「えっ、銀さん。それって、莉津姫が沖田さんのお姉さんと似てるってことですか?」

 沖田のお姉さんと莉津姫──。でも、あいつのお姉さんに似てるからって、何が関係あるというのだ。

「私がたまたま通りかかって見た、あの時、沖田は今まで見たことないような笑顔になったネ。柔らかい、とっても優しい表情で莉津姫を見つめてた」
「あー、うん。だから、それなんだけどさ。……沖田くんの姉ちゃんって、親代わりみたいなもんで沖田くんにとって特別大事な存在だったんだよ」
「だった、って」
「まあ、お察しの通り、沖田くんを置いて先に逝っちまったんだわ。俺も偶々、その経緯(いきさつ)に関わっちまったんだけどな。その後が気になってはいたから、大串くんに訊いたりしてさぁ。……立ち直るまで、相当大変だったらしい」
「そうだったんですか……。沖田さん、家族を亡くしてたなんて」

 新八の哀しそうな顔を見ながら、ふと、沖田がたまに見せたことのある憂い顔を思い出した。そんな顔の時、家族連れや親子を見た気がする。あいつはどんな思いで、それらを見つめていたんだろうか。

「なあ、神楽ー。そんな沖田くんを支えてたのがお前の存在だって、端から見れば思えたんだ。少なくとも、俺や真選組の連中、それにお妙もそう思ってる。多分、新八も」
「銀ちゃん……」

 私が、沖田を支えてたなんて。そんな都合のいい話を、今の私はとても受け入れられそうにない。

「ガキの色恋沙汰になんざ、首突っ込む気はなかったんだがな。お前のそんな沈んだ面、見てらんねーっつーか」
「もう、銀さん! ハッキリ言えばいいじゃないですか。神楽ちゃんが心配なんでしょう?」

 今度は、新八が私を真っ直ぐ見つめて。新八らしい、ストレートな言葉を投げかけてくる。

「神楽ちゃんはなかなか認めたがらなかったけど、僕たちはみんな知ってるんだ。神楽ちゃんが、どんなに沖田さんのことを大好きか。それに、沖田さんがいつも愛おしそうな瞳で神楽ちゃんを見つめてることも」
「だって……ホントに? 勘違いじゃないアルか? あいつのあんな顔見たら、全然自信なんかなくなっちゃって」
「大丈夫だよ。自信なくさないで。いつもの神楽ちゃんでいいんだよ。そりゃあ、ちょっとは素直になったらいいんじゃないかとは思うけど……。それと、これは沖田さんと同じ姉を持つ者としての見解なんだけどね。きっと、沖田さんは莉津姫にお姉さんを重ねちゃったんだよ。懐かしいっていうのとも違うかな? それこそ、神楽ちゃんを想うのとは違う、安らぎとか穏やかさみたいな……」
「俺もそう思う。ぱっつぁんも決めるときゃ、決めるよな〜。しかもオイシイとこ、みんな持っていっちまうんだもん。言い出しっぺの銀さん、立場ねぇじゃんか」

 まだ、自信をなくさなくてもいい? 沖田が莉津姫に恋してしまったんじゃないって、ホントに信じてもいいのかな?

「ほれ、泣いてる暇なんかねーだろ。早く行って来い!」
「えっ? 行く、って!?」
「沖田さん、莉津姫をかぶき町に案内するらしいよ。何かね、沖田さんのお薦めの街を訊かれて行くことになったみたい。何で知ってるか、訊かれる前に答えるけど……某ストーカーゴリラが、姉上に首絞められながら吐いてたから」
「かぶき町がお薦めねぇ〜。一体誰に会いたいんだろな?」


 まだ、一度も言えていない大事な想いがある。私は、それを伝えなきゃならない。
 7月8日──沖田総悟の誕生日に。おめでとう、の言葉と一緒に。ううん、おめでとうがついでだ。

 あいつが喜んでくれると信じて。莉津姫に向けた笑顔より……見たことはないけれど、亡くなったお姉さんに向けていたであろう笑顔より。もっと、ずっと極上の笑顔を私に見せて欲しいから。

「覚悟してろヨ、私が世界中の誰よりもお前のことが好きだって思い知らせてやるネ!!」




3話…5回くらい、半分まで打ち込んだのを誤って消してしまうアクシデントをやらかしました。うわーん!時間返して!
余談ですが、backでうぉーあいにぃがヘビロテしておりました。(りぴーと解除しなかっただけ・笑)

'11/07/03 written * '11/07/05 up

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