謐と無情と 3



「……っ、は…っ!!」
息が詰まるほどの強さで打撲傷を圧迫され、視界が真っ白に染まる。
路地裏で静雄に蹴られた脇腹に近い患部は、骨や内臓までは損傷を及ぼさずに済んだものの、動くたびに引き攣るような痛みを発して臨也を悩ませていた。今も酷い痣になっていたはずだ。そんなところを更に圧迫されては、一溜まりもなかった。
「…っ!?」
痛みに硬直したのは一瞬で、解放されるとすぐに身体は力無く沈み込んだ。だが、すぐさま静雄に足首を掴まれシーツの上を引きずられた。
交互に襲い掛かる鋭痛と鈍痛に気を取られ、抵抗ひとつできなかった。いや、抵抗すれば相応の罰を与えられるのだろうことが無意識下に刻み込まれてしまっていたからかもしれない。
「おら、足開けよ」
すでに静雄は臨也の投げ出された両足の間に身体を滑り込ませている状態だ。それにも関わらず、臨也自身の意志で足を開けと言う。
逡巡するのは当然だろう。いくら恐怖心を植え付けられているとはいえ、屈辱以外の何物でもないのだから。
「……んっ」
フルリと頭を振れば、静雄の眉と目尻が目に見えて吊り上がった。
「どうした…?」
催促されても頷けずに、再度逡巡を示した。しかし、それは静雄にとっては拒絶と映ったらしい。
「強制的に開かされるほうが好みか?」
そんなわけあるはずがない。泣き出しそうに顔を歪めながら静雄に訴えかけても届くはずがなかった。
「手間かけさせやがってよ…」
静雄は煩わしそうに臨也の右足に手をかけると、ぐいと力任せに開かせた。
「……っっ」
半ば強引に開かされたために股関節が痛い。いやだ、と唇が形作ろうとするけれど、見つかればまた難癖をつけられそうだったので唇が中途半端に開いたまま戦慄く。
代わりに、両手を顔面へと持ち上げ、片方は唇を隠し、もう片方で両目を隠した。
もう、静雄の顔も見たくなかったのだ。
「いきなり突っ込んでも平気かあ?」
わざとらしく間延びした声音を無視する。どうせ本気ならば臨也が首を横に振ろうと聞き入れてはくれないくせに。
カチャリと音を立ててベルトが外され、ズボンと下着が一気に引き降ろされた。
小さく身震いしたのは、下半身が思ったよりも冷たい外気に触れたから。
「まだ昨日の痕が残ってるぜ…」
露わになった内股を付け根から膝に向かってゆっくりと掌で撫でられる。
指先が徒に皮膚を掠るたびに肉の薄い付け根がヒクヒクと痙攣した。
その静雄の手つきは嫌悪感を生み出すものでしかなく、臨也は唇を噛み締め吐息を押し殺そうとした。
「ふぅ、…っ、んっ…!?」
持ち上げられた右足の足先が不随意運動を見せたのは、突然項垂れたままの臨也自身を指先でなぞられたからだ。
「はっ、震えてんぞ?」
刺激を受けたそこがふるりと震えたのを揶揄され、羞恥から一気に頬に熱が集まる。
加えて、視界を自らの意思で閉ざしてはいても静雄に見られているというだけで身体の中心に火がついた気さえするのが悔しい。
「なんだ?触ってほしいのか?」
真上で見えないはずの静雄が小さく笑ったのがわかった。応えずにいれば、無遠慮に臨也自身を握り締められた。
「は…ぅっ、はあ…っ!?」
根元を握られ、慌てて両手で縋るかのようにシーツを握り締める。すると、蛍光灯の明かりを背に満足そうに笑う静雄が視界に飛び込んできた。
「ん、…っ、は…っ」
新たなジクジクとした痛みが急所から鳴り止まず、困惑と恐怖に塗れた視界が涙で霞む。
「泣く前にすることがあるだろうが」
「……!」
容赦なく、緩やかに立ち上がりつつある自身の亀頭を親指の腹で摩られた。じんわりと汗を掻いた自身が、静雄の掌の中にすんなりと収まっていくのがわかる。
期待なんてしていないはずなのに、身体は無様にも他でもない静雄にこの熱を慰めてほしいと言っているかのようだった。
それは、恐怖に支配された身体が無意識に静雄へ服従することを選択したも同じことだった。
「臨也ァ?」
名前を呼ばれて、唇の端を噛み切っていることに気がついた。広がる鉄の味と同速度で、臨也の名を呼ぶ声がリフレインする。
そうして、気がつけば臨也の右手はシーツを離れ自身を捕らえる静雄の腕に縋っていた。
「…いい子だなあ、臨也。素直な手前は可愛いぜ?」
「…っ」
その言葉に腕に縋る指先に力が込もる。爪を立てたつもりだったが静雄は一向に気にする素振りはない。
「まあ、先に出しておいたほうが賢明だぜ?…他にココ慣らすもんなんかねぇからなぁ」
「………!」
するりと後孔を摩られることで、ようやく本意を悟る。
親切心から言われているようで、その内容は残忍そのものだった。
「痛い思いをしたくなかったらたくさん出したほうがいいかもなあ…」
そうして、静雄はどこか愛しげに切れて血が滲む唇を撫でてくれた。
だけれど、静雄が浮かべる微笑みは、その優しい手つきに反して酷く残酷なものだった。


―そう、それは、まるでこの身が味わった悪夢を想起させるかのような微笑み。



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2011.6.2up
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